大腸がんの治療法は病期に基づいて決まります。
最近は、がんの形状によって、3つの内視鏡的治療が可能になりました。
内視鏡を使って大腸の内側からがんを切除する方法です。がんが粘膜内にとどまっていれば、内視鏡のみの手術が可能です。大腸の粘膜には、知覚神経がありませんので、通常は傷みを感じることはありません。どの方法でも、摘出した病変を顕微鏡で十分に病理学的に検査することで、がんを取り残していないか、また転移や再発の危険性が高くないか確認していきます。
内視鏡ポリペクトミーは、内視鏡に付いているループ状の細い針金を、ポリープに引っ掛けて、高周波電流で病変粘膜を焼き切る方法です。基本的に入院せず外来で行われます。
平坦なポリープ等の場合は、ワイヤーがかかりにくいため、病巣に生理食塩水等を注入して、周辺の粘膜を浮き上がらせ、粘膜を焼き切ります。開腹せずにすむため、患者さんにとって身体的な負担の軽い治療法です。数日間の入院が必要になることもありますが、多くは外来で治療が行われています。
最近になって開発された方法で、病変の下層部に薬剤を注入しながら、病変を電気メスで徐々に剥ぎとります。比較的大きな病変もまとめて切除できます。従来の方法と比較すると、高度な手技が必要で切除にも時間がかかります。
患者さんの負担の少ない腹腔鏡が進歩しており、主要な外科的治療になりつつあります。
内視鏡的治療が出来ない場合には、外科的な治療が必要です。 外科的治療の分野についても、近年、非常に進歩しており、開腹しないで出来る腹腔鏡手術も急速に浸透してきています。
小さい傷で切除が可能なので、患者さんの負担が少なくてすみます。
内視鏡的治療が困難な大きなポリープや早期がんが腹腔鏡手術の対象です。 腹腔鏡を腹部の中にいれ、その画像を見ながら小さな孔から器具を入れて手術を行います。
がんを摘出するために1ヶ所4~8cmの傷が出来ます。 小さな傷で切除が可能ですので、術後の痛みも少なく、1週間前後で退院できる等、患者さんにとってメリットのある、負担の少ない術式です。
腹腔鏡手術は近年、開発された手術手技であり、特殊な技術・トレーニングを必要とし、外科医が誰でも安全に施行できるわけではありません。
腹腔鏡手術を希望する場合には、専門医がいる病院を受診し、充分に説明をうけることが大切です。
がんを含めて結腸とリンパ節を切除します。
がんが粘膜を越えて広がっている場合には開腹して大腸を切除し、リンパ節も取り除く手術が行われます。
結腸がんの場合、この手術を「結腸切除術」といいます。
結腸を切除する範囲は、がんのできている部位やがんの進行度によって異なります。
通常は結腸を部分的に切除します。
多発がんや家族性大腸ポリポーシス等では、結腸全体を切除しなければならないこともあります。
結腸の大部分を切除しても、消化・吸収機能に関しては特に問題は生じません。
リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれるリンパ節の切除とともに、結腸切除術が行われます。
技術の進歩によって、80~90%程度は肛門を残せます。
直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、直腸の周辺には前立腺・膀胱・子宮・卵巣等の泌尿生殖器があります。
そのため、排便・排尿・性機能等、日常生活の上で重要な機能は、骨盤内の自律神経という神経によって支配されています。
進行していない直腸がんには自律神経を完全に温存します。
しかし自律神経の近くにまで進行している直腸がんでは、自律神経を含めて切除する術式が採用されます。
直腸がん手術には、その進行度に応じたさまざまな術式を使います。
過去15年に進歩した手術法です。がんを切除しながら、同時に進行度に応じて神経を残す方法です。
直腸の周囲には、排尿、排便機能と性機能(男性の勃起・射精機能)を支配している自律神経が集まっています。
手術の際にこれらの神経を切断すると、術後に排尿障害や性機能障害等が起こってきます。
そこで、手術中に自律神経を確認しながら、必要に応じて、残せる神経は残す手術が行われています。
このような手術を「自律神経温存術」といいます。
多くの場合は、肛門括約筋温存術と併用されています。
すべての神経を残すことができれば手術前とほとんど同じ機能を残すことができます。
ただし、がんの進行度によっては、神経を切除せざるを得ないこともあります。
以前は進行した直腸がんの手術では、かつては肛門括約筋まで切除して、人工肛門を作りました。
しかし、最近では、直腸がんの手術を受けた患者さんの80%は、肛門を残せるようになりました。
これは、腸を縫合する器具が発達してきたためです。
このように、肛門の機能を残し、肛門からの排便を可能にする手術を「肛門括約筋温存術」といいます。
直腸を切除すると、便をためておくことができません。
そのため、排便回数が多くなる「頻便」が起こってきます。
特にお年寄り等で、肛門括約筋の力が弱い場合は、頻便が起こりやすく1日数十回ということもあります。
放射線療法には高エネルギーのX線を体の外から照射してがん細胞を殺し、がんを小さくする効果があります。
肛門がんを含む直腸がんのみの療法になりますが、手術前後の補助治療として、 「骨盤内からの再発の抑制」「手術前のがんの大きさの縮小」や「肛門を温存すること」等を目的として、放射線治療を行う場合があります。
また切除が難しい骨盤内のがんによる痛みや出血等の症状を緩和するためや骨転移による痛みや脳転移による神経症状等を改善するためにも一般的に行います。
化学療法は薬剤を用いて、がん細胞を抑える方法です。
目的
2005年に新たな薬剤の併用療法が、再発大腸がんに対して保険適用となり、FOLFOX(フォルフォックス)療法やFOLFILI(フォルフィリ)療法と呼ばれる化学療法が第一選択肢となりました。 以前の治療と比較して、高い効果、生存期間の延長が期待されるようになりました。 FOLFOX療法、FOLFILI療法は48時間の持続点滴を基本とした治療法です。
従来の抗がん剤に加えて、最近では分子標的治療薬を併用する場合もあります。
大腸がんの化学療法は2007年に「分子標的治療」と呼ばれる新しいタイプの薬剤である「ベバシズマブ」(商品名:アバスチン)が加わりました。
通常の抗がん剤は、がん細胞の分裂を妨害することで、がん細胞にダメージを与えますが、正常な細胞も攻撃してしまいます。
分子標的治療薬は、がん細胞だけがもつ特定の分子や、がんの増殖・転移に深く関わる分子だけを狙って攻撃するように作られた薬剤です。
通常の抗がん剤の副作用とは全く異なるそれぞれの薬剤に特徴的な副作用を起こします。
費用的に大変高額で、200万から500万円前後かかります。
主に生存期間をのばすことを目的に行います。
抗がん剤 | 分子標的薬 | |
---|---|---|
正常細胞への影響 | あり | 少ない |
主な副作用 | 吐き気、脱毛、白血球減少 | 血圧上昇、皮膚障害 |
※抗がん剤は約50年前から、分子標的薬は約4年前から(大腸がんの場合)使われています。
大腸がんの治療を行っているがん診療連携拠点病院
がん診療連携拠点病院とは、全国どこでも「質の高いがん医療」を提供することを目指して、 都道府県知事による推薦をもとに、厚生労働大臣が検討会の意見を踏まえて指定した病院です。
がん診療連携拠点病院には「都道府県がん診療連携拠点病院」と「地域がん診療連携拠点病院」があります。
「都道府県がん診療連携拠点病院」は各都道府県におけるがん医療の中心的な役割を担う病院です。