―健保組合は何をなすべきか?―
「あしたの健保組合を考える大会 PART8」開く
組合関係者など200人が参加
健保連大阪連合会は11月25日、大阪市浪速区のホテルモントレ グラスミア大阪で「あしたの健保組合を考える大会 PART8」を開いた。大会には200人の健保組合関係者などが出席。近畿地区各府県からも多数の参加があった。大会では、伊藤由希子氏(津田塾大学教授)、松本展哉氏(健保連参事)による講演が行われた。
健保連大阪連合会では、皆保険制度維持に向けて、健保連本部の取り組みと連動し、高齢者医療の負担構造改革・実効ある医療費の適正化施策の強化などを国に求め、これまでも「あしたの健保組合を考える大会」を開催してきた。
今回は、健保組合の財政状況が厳しさを増すなか、医療・介護のDXを活用した効率化と質の向上など、さらなる改革の実現を目指して、「健保組合は何をなすべきか?」をテーマに開催した。
大阪連合会による「あしたの健保組合を考える大会」は、今回で8回目の催しとなる。
大会には、大阪府内の健保組合役職員をはじめ、府外の近畿地区各府県の健保組合からも多数参加があり、200人が集まった。

久保俊裕
大阪連合会会長
主催者を代表し、大阪連合会・久保俊裕会長が開会のあいさつを行った。久保会長は「来月2日には健康保険証の新規発行が終了し、マイナ保険証を基本とした仕組みに移行する。国民がメリットを実感するためには、電子処方箋の普及や電子カルテ情報の標準化など、医療DXの推進を国が進めることが必要である。また、急速な高齢化と生産年齢人口の減少により、支え手である現役世代の負担が高まっている。国民皆保険制度を維持し、将来世代に確実に引き継ぐためには、すべての世代が負担能力に応じて支え合う制度の構築に向けた改革も必要である。全世代型の社会保障制度の実現・現役世代の負担軽減の観点から、実質的な負担増とならないよう、後期高齢者現役並み所得者への公費投入や、医療・介護における保険給付範囲や自己負担の見直しなど、歳出改革の徹底をこれまで以上に強く訴えていかなければならない。本日の大会は、皆保険制度の維持に向けて健保連本部の取り組みと連動し、厳しさを増す健保組合の財政状況のなか、医療・介護のDXを活用した効率化と質の向上など、さらなる改革の実現を目指して、健保組合は何をなすべきか、皆様と考えていきたい。最後に、この大会を通して、皆様の意志結集を図り、今後の取り組みを強化していくことをお願いしたい」と述べた。
続いて、伊藤由希子教授(津田塾大学)が「日本の医療DXの行方と健保組合のあり方」をテーマに、松本展哉参事(健保連)が「改革実現に向けた健保組合の新たな取り組み」をテーマにそれぞれ講演された。
そして、大会の閉会にあたり、健保連・宮永俊一会長のあいさつが行われた。
講演「日本の医療DXの行方と健保組合のあり方」(内容抜粋)伊藤教授

伊藤由希子教授
あらためて、医療DXとは何か。基本的には、個人の受ける様々なサービスの情報につながることにDXの本質があると思っている。今でも情報は存在しているが、それぞれがつながっていない。本来であれば、生まれてからどのような病気になり、どんな治療を受けたかが分かれば、より安心して医療を受けられる、そういう仕組みがいよいよ必要である。
健保組合における保健事業において、今後のDXのビジョンをとらえたとき、今までの事業が本当に無駄にならないようにサービスをつなげるということ。かつ、無駄にならないよう各部門でどのようなことが起きているかを、保険者として取り得る情報の範囲でチェックをしていくことが大事だと思う。
保険者はこれまで、どちらかというと財源に注力されてきた。しかし、今後DXを進めるということは、今まで見えなかったものが見えてくる。つまり、診療報酬の値付けは本当に適切なのか。また、医療サービス自体も医師や医療機関を適切に検証するために必要で、それを患者や医療機関にフィードバックすることも大事になってくる。
そして国。一番お金をかけなければならないところを、もう少し真面目に考えてほしいと思っている。情報をつなげる仕組みを整えなければならないのに、それぞれのデータベースの安全性を確保しようとするあまり、データベース同士のつながりを欠いている。そんなものはあまりDXにならないことが、私が言いたいことの一つである。
DXを進めていると、即、イノベーションになるような言い方をされるが、考え方によっては壮大な無駄になる可能性もある。その部分を、これから保険者として注視していただきたい。
講演「改革実現に向けた健保組合の新たな取り組み」(内容抜粋)松本参事

松本展哉健保連参事
「ポスト2025」新提言検討WGを4月に設置した。これまでに月に1回、あるいは2回の会合を開き、10月24日の全国大会当日には、常任理事会メンバーにも加わっていただき、拡大WGを開催した。
まず、新提言を発表する前に、加入者や国民に向けて医療保険制度の現状、問題点などを理解していただく取り組みを行う。Q&A形式で、分かりやすく伝わりやすいリーフレットを作成し、年内にも健保組合を通じてお配りする予定。あわせて、来年11月には、新聞紙面やインターネットなども活用した広報展開を準備している。新提言には、加入者・国民に向けたものも取り入れることにしており、
①医療費のしくみ・厳しい状況についてもっと知ってください
②自分自身で健康を守る意識をもってください。健診をきちんと受けましょう
③軽度な体の不調は自分で手当てするセルフメディケーションを心がけましょう
――の「3つのお願い」という形で検討している。
事業主に対しては、健康経営の推進や、デジタル化による健保組合業務の革新(健保組合DX)、保健事業への協力などをお願いする。特に、電子申請やマイナ保険証の対応についてお願いしたい。
国に対しては、制度改正事項が中心となるが、負担の公平性確保、保険料と税の負担構造の見直し、医療提供体制の改革、保険給付の見直し、医療DX施策の強化などを求めていきたい。
そして、我々健保組合・健保連としても、制度改正の要求だけではなく、社会の変化に対応し、新しい取り組みにチャレンジしていくことも求められていると考える。
会場から質問

山上智也常務理事
伊藤教授に対して、会場参加者である大阪工作機械健保の山上智也常務理事から、「いよいよ来週から従来の健康保険証が廃止され、マイナ保険証に移行される。DX推進の第一歩となるが、単に医療・処理費用の効率化を図るのではなく、私たちが求めるものは、疾病の原因・対策が適切で早い、効果的なアクセスなど患者本位の改革も必要であると思っている。伊藤先生から見て、今後、医療保険制度が存続でき、健保組合が加入者本位のDXを推進させるため、最大の課題となると予想されることは何か。健保組合はその課題にどのように対処すればよいか」との質問があった。
この質問に対し伊藤教授は、「例えば、調剤レセプトには処方医が記載されている。それを見て、疑義が生じるような請求をしている医療機関を確認し、対応を考えるという方向性もポイントとなる。また、昨今の働き方改革において、副業や兼業などがある場合、どのようにその加入者の賦課ベースを把握するかなど、健保組合自体の事務処理効率化もできることの一つである。これにより、保険料の適正使用が図られるかなと思う。そして、加入者本位のDXはとても大事だが、最大の課題は、何のための保険制度なのかということ。もしもを支えるリスクプールということが元々の保険の原理であり、就業実態の多様化が進むなか、いかに就労を適切に促進できるかが重要となる。健保組合ができることとして、まずは加入者の就業実態をつかむこと。次に、家族も含めた加入者本位の医療のため、マイナ保険証を促進すること。最後に、医療DXのために健保組合も多額のお金を払っている。ならば、それに見合う「就業の促進・医療サービスの利用・健康上のアウトカム」という3つが担保されているかどうかを確認することが、大事なポイントであると思う」と述べた。
宮永俊一健保連会長あいさつ

宮永俊一
健保連会長
本日は、伊藤教授からとても意義深いお話をいただいた。医療DXとしては、まず、現在の医療情報を可視化することが、より良質な医療の提供や医療費適正化のために不可欠であることや、マイナ保険証の活用の重要性やそのポテンシャルについて、非常に分かりやすいお話だった。直近10月のマイナ保険証利用率はまだまだ低い状況だが、これからの医療DXの推進に欠くことのできない重要な基盤であることは間違いない。私たち保険者も国と一体となり、利用率向上に努めていきたい。
先月行われた衆議院議員選挙を経て、今月11日に第2次石破内閣が発足した。これからは少数与党による極めて厳しい国会運営が見込まれる。税や社会保障をめぐる諸問題が山積するなか、政治の安定とともに、政策の行方を注視していかなければならない。
先の全国大会では「現役世代を守るための改革断行を!―2025年を乗り越え、未来につながる皆保険制度に―」をテーマに「皆保険を全世代で支える持続可能な制度の実現」など、4つのスローガンを掲げた。子育て世代に重く、現役世代に偏った負担を軽減し、年齢にかかわらず負担能力に応じて支える仕組みに変えなければならない。そのためには、国や保険者だけでなく、医療提供者や患者も含め、国民一人ひとりが当事者として、その役割を理解し、実践する必要がある。
現在、「ポスト2025」新提言ワーキンググループで、5年後、10年後に向けて国が実現すべき改革や、健保組合に求められる新たな役割などを意識した新たな提言の策定に向け、来春の取りまとめを目指し検討を重ねている。さらなる制度改革、健保組合の保険者機能強化の支援などに向けて、私も先頭に立って取り組んでまいるので、引き続きのご支援・ご協力をお願いしたい。