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広報誌「かけはし」

どうする?健保組合―財政危機・少子化対策財源問題―
「あしたの健保組合を考える大会 PART7」開く
組合関係者など220人が参加

健保連大阪連合会は12月6日、大阪市北区のホテルモントレ大阪で「どうする?健保組合―財政危機・少子化対策財源問題― あしたの健保組合を考える大会 PART7」を開いた。大会には220人の健保組合関係者などが出席。近畿地区各府県からも多数の参加があった。大会では、西沢和彦氏(日本総合研究所 理事)による講演が行われた。

健保連は、皆保険制度維持に向けて、高齢者医療の負担構造改革・実効ある医療費の適正化施策の強化などを国に求め、これまでも「あしたの健保組合を考える大会」を開催してきた。

今回は、健保組合の財政危機は解消されず、高齢者医療費対策は十分とは言えず、医療DXは遅れ、社会保険での少子化対策財源まで議論になる今日の現状を打開するために、「国は今何をすべきか、健保組合は本来機能のため何をすべきか」をテーマに開催した。

大阪連合会による「あしたの健保組合を考える大会」は、今回で7回目の催しとなる。

大会には、大阪府内の健保組合役職員をはじめ、府外の近畿地区各府県の健保組合からも多数参加があり、220人が集まった。

久保俊裕
大阪連合会会長

主催者を代表し、大阪連合会・久保俊裕会長が開会のあいさつを行った。久保会長は「総務省統計局の発表による日本の総人口は、2023年5月で1億2447万人。そのうち、65歳以上は3621万人、15歳未満は1431万人である。また、厚生労働省が発表した昨年の出生数は約77万人であり、80万人台を割り込んだ。今年の上半期速報による出生数は約37万人で、下半期も同傾向で推移すれば、今年の出生数は72万人と予想されており、少子化に歯止めがかからない状況である。このようななか、政府は6月13日に異次元の少子化対策の具体的な内容として「こども未来戦略方針」を閣議決定した。しかし、ここでは財源確保の具体策は示さず、年末までに結論を出すと先送りした。我々はこれまでに、自民党の国民皆保険を守る国会議員連盟や、健保組合全国大会、社会保障審議会医療保険部会などで、少子化対策の重要性を主張してきた。国民皆保険制度を維持し、将来世代につないでいくため、全世代型の社会保障の実現・現役世代の負担軽減の観点から、実質的な負担増とならないよう、歳出改革の徹底をこれまで以上に強く訴えていかなければならない。本日の大会では、皆保険制度の維持に向けて健保連本部の取り組みと連動し、今日の現状を打開するため、国は何をすべきか、健保組合は本来機能のため何をなすべきか、皆様と考えていきたい。最後に、この大会を通して、皆さまの意志結集を図り、今後の取り組みを強化していくことをお願いしたい」と述べた。

続いて、西沢和彦理事(日本総合研究所)が「どうする?健保組合―財政危機・少子化対策財源問題」をテーマに講演された。

そして、大会の閉会にあたり、健保連・宮永俊一会長のあいさつが行われた。

講演「どうする?健保組合―財政危機・少子化対策財源問題―」(内容抜粋)
西沢理事

西沢和彦理事

1.社会保険への逆風

社会保険という方法は、極めて重要であるが逆風が強まっている。

逆風とは

①高齢者医療費への拠出金の増大

②少子化対策の支援金制度(仮称)

③社会保険への無理解

④子どもの医療費無償化の拡大

⑤制度が複雑化、負担と受益の対応の認識困難

―が挙げられる。

国の一般会計の節約に社会保険料が繰り返し使われてきたことや、保険原理を完全に逸脱した少子化対策の支援金制度(仮称)。少子化に対しては、保険者も責務を果たすべきであるが、それは保険者としてなすべきこと(出産育児一時金などの現金給付、安心できる妊娠・出産体制の確保などの保険者機能の発揮など)で行うのが本筋である。

国民健康保険の市町村と都道府県の一体化は、特に財務省の社会保険への無理解を感じる。保険料統一により市町村の役割は低下する。前期高齢者納付金を納めている被用者保険にとって、国保のあり方を注視し、物申していく必要がある。地方自治体ごとに子どもの医療費無償化が拡大し、医療の過剰需要が発生している。保険財政を圧迫し、地方自治体の施策に対しては、保険者のコントロールが及ばない。

2.健康保険を取り巻く諸環境の変化

政治が租税から目を背け続ける限り、社会保険料の流用は止まらない。消費税の利点が国民に理解される必要がある。

年金を含めた現行の社会保険制度は、正社員と家庭に専業している者を想定して作られた。現在は共働きが主流となり、勤務形態も多様化するなど、自ずと医療保険および保健事業のあり方も改革を迫られている。

1986年に男女雇用機会均等法が施行されたが、日本のジェンダーギャップ指数は世界で125位。2023年は、130万円・106万円といった年収の壁が話題になり、連合は第3号被保険者の廃止を提唱。医療保険においては、被扶養者の見直しが視野に入ってくる。

科学技術は医療保険の支払い能力とは関係なく発展し、使用者数が多く見込まれる高額薬の保険給付の範囲も不透明である。

3.健康保険組合への期待

医療提供体制の変革、とりわけプライマリ・ケアの制度整備は必須であり、保険者が被保険者の医療ニーズを集約しリードする。では、どのような医療提供体制が望まれるのか。

新型コロナ禍を受け、我が国の医療提供体制の最大の弱点が改めて認識された。発熱などで疾患が疑われる者の医療機関へのコンタクトがうまく進まない事態が生じ、変わって受け皿となった保健所が逼迫した。多くの欧州諸国で採用されている家庭医(総合診療医)と異なり、我が国ではかかりつけ医によってプライマリ・ケアが担われてきたが、必ずしも専門のトレーニングを積んだわけではない。第三者による認定制に欠け、医師の患者との関係も任意である。

財務省は、財政制度等審議会の建議を通じ、かかりつけ医の制度化を訴えた。これは、家庭医の考え方に近い。しかし、医療提供側の立場を強く反映した改正医療法が成立し、大まかな方向性が示されたにとどまり、詳細は2024年夏を目途に結論を得ることとされた。

医療DXにより紙から電子カルテに置き換わったとしても、医師が個人で使うだけでは意味がない。今後検討されるその活用方法こそが、マイナンバーカードの健康保険証利用が進むか否か、医療の質向上の核心になると思われる。

健康保険組合は重要な人材戦略部門であり、財務戦略部門である。時には事業主と対峙し、被保険者にとって有益な情報の開示を行わなければならない。これは、医療提供体制の変革にもつながるものである。

会場から質問

佃 博常務理事

西沢理事に対して、会場参加者である大阪港湾健保のつくだひろし常務理事から、次の2点について質問があった。

①国が決定した「デフレ完全脱却のための経済対策」で、家計支援・物価高対策・賃上げ支援・経済対策など、多方面の取り組みが実施されるが、これで本当に所得が物価高以上に上昇し、国民の可処分所得が拡大されるのか。2021年から2023年にかけて、健保組合の保険料収入は2%以上増加する見込みだが、保険給付・高齢者医療拠出金は6~7%増となっており、この差が解消されない限り、健保組合の財政は改善しない。今後の負担と給付の見通しと施策についてお考えをお願いしたい。

②少子化対策の財源は社会保険ではなく、消費税を中心に検討すべきと主張されている。現役世代が高齢者も少子化も支える仕組みには限界があると強く感じている。少子化対策も含め、将来の社会保障制度を維持するため、国も消費税のあり方について検討されていると思うが、何か前向きな情報はないのか。

以上2点の質問に対し西沢氏は、「今の経済対策において多く見られる、所得税減税や無償化など、家計に現金を給付することは成長を促さない。個人が能力を高め、日々工夫するということでしか成長しないと思う。保険料率が10%を超えていることは本当に危機的だと思う。高齢化には抗えないが、それを不作為とするなら、作為的に支援金を使って税の代わりを果たすという政府の方針は確実に改めないといけない。国保への前期高齢者交付金についても、会計の透明化などを強く訴えていくなどの政策提言や日々の健保組合の活動が重要となる。また、ハレーションが起こることは予想されるが、医療機関の評価に関する情報を組合員に開示してもよいと思っている。そういったデータが整備されると、医療機関の状況や医療費についてわかることが増え、良い点・悪い点などの情報は、金銭的なもの以外にも価値がある」と述べた。

宮永俊一健保連会長あいさつ

宮永俊一
健保連会長

本日の大会においても、西沢氏の講演は、特に少子化財源の問題に関し、税と保険料の役割、社会保障財源としての消費税の重要性など、健保組合の立場からみて、非常に分かりやすい趣旨であった。さらに、これからの健保組合への期待と力強い激励もいただいた。まさに、我々保険者が「あしたの健保組合を考える」ために、新たな視点と深い示唆を頂戴した。

今年の全国大会でも触れたが、健保組合の財政は依然として厳しい状況が続いている。健保連では、2023年度の決算はマイナス3600億円の赤字に転じる予測をしている。この傾向は、団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年、高齢化のピークを迎える2040年に向け、さらに強まるとみている。このまま拠出金が際限なく増え続ければ、負担に耐えきれない健保組合の解散が相次ぐ事態にもなりかねない。

先日の国会では、2023年度の補正予算が成立し、いよいよ2024年度の政府予算編成の議論が本格化する。特に政府が最重要課題に位置づける、少子化・子育て対策は財源確保のための、新たな支援金制度の検討が大詰めを迎える。

また、6年に一度の「診療報酬・介護報酬」のダブル改定も控えている。現在の賃金や物価の動向を踏まえつつも、医療費の増加基調と医療保険制度の持続可能性を考慮すれば、安易に引き上げる環境にはない。一方で、看護・介護従事者の処遇改善などは考慮すべきであり、メリハリの効いた改定とすべきである。

先の全国大会で「負担を将来世代に先送りするのではなく、皆保険制度を持続可能で、より良い制度として、将来世代に引き継いでいくことが私たちの使命である」と申し上げた。そのためには、全世代型の社会保障制度を構築するさらなる改革の実現や、質が高く効果的・効率的な医療を提供するための医療DXの推進、さらに、健保組合が保険者機能を一層発揮し、だれもが健康で生き生きと活躍できる社会の創出に貢献していくことが必要である。

私も先頭に立って取り組んでいくので、皆さまには引き続きのご支援・ご協力をお願い申し上げる。