■2015年2月 No.521
人口危機と向き合い歯止めを
― 半世紀前には警鐘も ―
銀幕の上で暴れ回っていた怪獣を、お茶の間に招き入れたのは、1966年(昭和41年)に始まったテレビの特撮番組「ウルトラQ」だ。子どもたちを夢中にさせたが、異形のモンスターが登場しない作品もあった。
「1/8計画」は、その一つ。冒頭、通勤客であふれた“国鉄”渋谷駅のホームが映る。カメラを手にした女性主人公が雑踏で倒れ、意識を失うとナレーションがかぶさる。「世界第一の人口密度を持つこの街で……」
目が覚めた彼女の元に抱えるのには苦労する大きなカメラが運ばれてくる。やがてビルの5階を超える大男の友人が現れて……。彼女が迷い込んだのは、人口過密を解消するため、人間や建物を8分の1に縮小したモデル地区。カメラも友人も巨大化したのではなく、“元”の大きさだったのだ。
当時は高度成長期。ベビーブームを経て人口は増え続け、人間を縮小すれば狭い国土を有効利用できる――。突飛な空想が子ども番組の題材になるほど、人口問題はだれもが知っていた。翌年には1億人を超える。
56年に刊行された初の「厚生白書」は人口増加を「経済発展の重荷」とした。「過剰人口」は「激化して行く」とされたが、足元では、重く大きな歯車が回り始めていた。
それから10年、放送の年の66年版白書は「わが国の人口動向が、決定的に人口の縮小再生産過程にはいったと即断すべきではないが、出生率の今後の動向には、注視を要する」と指摘した。ほどなく出生数は坂を下る。
少子化対策の嚆矢(こうし)とされる「エンゼルプラン」は95年のこと。人口減少はその頃、社会問題化したと思い込んでいたが、半世紀前には警鐘が鳴らされていたことになる。
自治体の半数が将来、消滅する恐れが高い――。昨年5月、「日本創成会議」が公表した人口予測は衝撃だった。12月の衆院選圧勝で再始動した現政権は「地方創生」を政策の柱とし、自治体側も存亡をかけて対策に乗り出した。
内政課題の大半はこの問題に通じないだろうか。社会保障制度の維持も、デフレ脱却も、財政再建も安定規模の人口が土台であろう。圧勝で得た政治的安定は賃金と雇用の確保、子育ての環境づくりに生かされるべきだ。
「過密」のイメージが強過ぎたのか、半世紀も有効策が打てていない問題に、なんとか歯止めをかけなくてはいけない。1億人維持を目指すなら、なおのことだ。
「消滅」は自治体に限らず、健保組合が直面する危機でもある。拠出負担による財政悪化などもあり、07年度から6年間に99の組合が“消えた”。賃金と雇用は健保財政の土台でもあり、人口が国を支えるように、健保組合は国民皆保険制度を支えてもいる。
阪神大震災から20年。あの年、生まれた子どもたちも成人式を迎えた。彼ら、未来をになう世代に手を差し伸べよう。国や自治体まかせにせず、当事者として、この問題に向き合おう。残された時間は多くはない。人口減少は、もはや国を挙げて取り組むべき危機だ。
(S・A)