健康教室
11月26日、健康教室を開催。京都大学大学院医学研究科 社会的インパクト評価学講座 特定准教授
健康格差へのアプローチ
~誰もが自然と健康になれる環境づくり~

高木 大資 氏
これまでの疫学研究から、喫煙や運動、野菜や塩分の摂取などの行動が多くの非感染症と関連することがわかっています。こうした知見を基に、「正しい知識を伝えれば、人は健康的な行動をとるようになるはずだ」と、様々な啓発・啓蒙活動が行われてきました。
しかし実際には、知識があっても行動を変えることは簡単ではありません。国の健康づくり施策である「健康日本21(一次)」の評価においても、従来型の啓発・啓蒙だけでは、人々の行動変容を十分に引き起こすことが難しいことがわかりました。なぜなのでしょうか。
社会疫学という分野では、個人の知識、意識、努力だけでなく、人が暮らす社会環境が健康や行動に影響を与えることが示されています。たとえば、歩きやすいまちに住む人と、歩くにくいまちに住む人では、肥満者の割合が10%以上異なることを報告した研究があります。また、ファストフードや野菜・果物の価格が、住民の食習慣やBMIと関連することもわかっています。

こうした、人々の健康や行動を左右する社会的な要因は、「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)」と呼ばれています。WHOも2008年のCommission on Social Determinants of Health最終報告書で、健康格差対策のためには環境の改善が不可欠であると提言しています。また、「人生100年時代」と言われる社会では、単に病気・障がいがないことだけでなく、病気・障がいがあっても自分らしく生きられること、豊かなつながりがあること、いきがいを持てることといった、新しい健康観が重要になってきます。そのためには、医療だけでなく、社会環境を整えることが欠かせません。
近年、このような観点を背景に、地域や職場で新しい取り組みが始まっています。たとえば介護予防の分野では、自治体と民間企業が協働し、マーケティングの視点を取り入れた健康まちづくりが進められています。従来の介護予防事業では参加が少なかった高齢男性を対象にした通いの場を設計することで、これまで届きにくかった層の社会参加を促した事例もあります。
職域では、「ナッジ」と呼ばれる行動科学の手法も活用されています。これは、努力や意識に頼らなくても、自然と望ましい行動を選んでしまうような環境を工夫する方法です。たとえば、社員食堂の容器を小さくするだけで、スナックの摂取量が減ったという報告があります。これは、元々の選択肢を望ましいものにする「デフォルト」と呼ばれる手法です。また、社員食堂での料理の選択結果が月初に本人に送られ、健康的な料理の割合が目標を超えたら(少額の)お金をもらえるという、「フィードバック」「インセンティブ」という手法を用いた介入事例もあります。
これらの取り組みが目指していることは、「誰もが自然に健康になれる環境づくり」です。個人の努力に任せるだけでは、健康に関心がない人や、環境が整っていない人が取り残される可能性があります。このような環境づくりのためには、医療・保健の枠を超えた様々な組織と協働しながら、「健康を支える社会環境そのものを作っていく」という考え方が重要になります。


