健康教室
10月30日、健康教室を開催。近畿大学病院 遺伝子診療部副部長 兼 脳神経内科 臨床教授
~頭痛がなくなるって本当ですか~ 『知って得する頭痛の話』

西郷 和真 氏
「片頭痛の病態と最新治療」
頭痛は大きく、1次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)と、脳血管障害・外傷・感染症などに伴う2次性頭痛に分類されます。1次性頭痛の中でも片頭痛の有病率は約8%と高く、日常生活への支障度が非常に大きいことが報告されています。国際調査では、片頭痛は「日常生活に支障をきたす疾患」の第2位に位置し、日本では労働生産性の低下(プレゼンティーズム)による年間経済損失が最大2兆3000億円に達すると推計されています。
片頭痛は拍動性で片側性の中等度?重度の頭痛を特徴とし、悪心や光・音過敏を伴います。発作は前兆を伴う場合と伴わない場合があり、ストレス、睡眠不足、月経、気候変化、アルコールなどが誘因として知られています。病態にはセロトニンの変動、皮質拡延性抑制(CSD)、三叉神経系の活性化、神経ペプチドCGRPの放出などが関与し、これらが複雑に相互作用して発作を引き起こすと考えられています。主要な仮説として「三叉神経血管説」が広く支持されていますが、それぞれの仮説が複雑に関係し、一つの病態だけでは片頭痛を説明することはできません。

急性期治療の中心は薬物療法です。軽症ではアセトアミノフェンやNSAIDs、中等度?重度ではトリプタン製剤が推奨されます。服薬のタイミングは「痛みの初期」が重要で、遅れると効果が減弱します。トリプタンが使用できない場合には、血管収縮作用を持たない新規薬(ラスミジタンなど)が登場しており、治療の幅が広がっています。治療の目標は「副作用なく速やかに頭痛を消失させ、機能を回復すること」です。
予防療法は、月2回以上の発作がある方や、日常生活への支障が大きい患者に推奨されます。従来は抗うつ薬、β遮断薬、抗てんかん薬、カルシウム拮抗薬などが用いられてきましたが、有効性や副作用の問題で中断する例も少なくありませんでした。近年では、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした抗体薬(ガルカネズマブ、エレヌマブ、フレマネズマブなど)が登場し、発作日数を有意に減少させ、50%以上の発作減少を示す患者が約6割に達するなど、高い有効性が報告されています。主な副作用は注射部位の反応であり、重篤な有害事象は稀で、安全性も高いことが確認されています。さらに、CGRP受容体を標的とした経口薬(ゲパント)の開発も進んでおり、より利便性の高い治療が期待されています。
今後は、頭痛専門医による適切な診断と治療によって、「日々、頭痛に悩まされない」「頭痛のない生活が実現できる」時代が現実のものとなりつつあります。


