心の健康講座
9月29日、心の健康講座を開催。関西医科大学 リハビリテーション学部 作業療法学科 教授 吉村 匡史氏が「勤労者世代ができる認知症対策―メンタルヘルスも含めて―」をテーマに講演されました。
勤労者世代ができる認知症対策 ―メンタルヘルスも含めて―

吉村 匡史 氏
加齢にともなう認知面・心理面の変化
私たちは年齢を重ねるにつれ、視覚、聴覚などの感覚機能が低下し、記憶力や注意力も低下します。特にエピソード記憶(経験した出来事の記憶)やワーキングメモリ(暗算などで作業終了まで保たれる記憶)は加齢とともに衰えやすくなります。また、これらの機能低下にともなう喪失感なども加わり、孤独感や死への不安が現れやすくなります。こうした変化は避けることができませんが、生活の質やメンタルヘルスに影響を与えることがあります。
認知症とは
認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が後天的な脳の変化によって持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態です。その症状は認知機能低下を指す「中核症状」と、心理・行動面の変化である「認知症の行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。日本において認知症を有する人の数は今後も増加が見込まれますが、欧米では教育や生活習慣の改善により有病率が低下したとの報告もあり、後天的な要因の重要性が注目されています。
認知症の原因疾患にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあり、それぞれ症状が異なります。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に関しては疾患の進行を遅らせる薬剤が保険収載されていますが、進行を止める治療法は未だ確立されていません。

認知症の予防
認知症の危険因子として高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが、一方で防御因子として適度な運動、バランスのとれた食事、余暇活動、社会的参加などが挙げられています。フィンランドで行われたFINGER研究では、食事・運動・認知トレーニング・生活習慣改善といった多面的介入により、高齢者の認知機能が有意に改善しました。この結果は、認知症予防において複数の健康習慣を総合的に取り入れることが重要である可能性を示しています。また、全世界で行われた認知症予防に関する研究を総合的に解析した報告(Livingstonら:Lancet誌に2024年に掲載)では、認知症発症に関わる因子のうち改善可能なものは45%あるとし(改善不可能な因子には、加齢など避けることができない因子が含まれる)、高齢期(65歳以上)の社会的交流の不足や視力低下、中年期(45~65歳)の聴力低下、糖尿病、高血圧、肥満、運動不足、うつ病、喫煙などが挙げられています。
認知症の発症を完全に予防することや一度発症した認知症の進行を止めることは困難ですが、できるだけ心身の健康を維持することが、認知症の発症・進行の危険性を低下させることにつながります。


