けんぽれん大阪連合会

けんぽれん大阪連合会 会員組合員専用サイト 要認証
近畿地区連合会 専用サイト 要認証

広報誌「かけはし」

時評

大阪・関西万博 未来へつなぐレガシー

iPS細胞を開発してノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さんは、1970年に大阪で万博が開かれたとき、小学校2年生だった。興奮を今も覚えているそうだ。何を見たのか、誰と行ったのかは、はっきりとしないが、「すごいことが、すぐ近くで起こっている」という記憶だ。この経験が、間違いなく科学への興味につながったと、読売新聞のインタビューに答えている。

世界的科学者と張り合うつもりはないが、当時5歳だった私も、万博の記憶がある。母と兄と訪れた夏の夕暮れ。会場が見渡せる小高い場所に立つと、世界各国のパビリオンがキラキラとまばゆく輝いていた。「こんなにきれいな世界があるんだ」と胸が高鳴った。

55年ぶりに戻ってきた大阪・関西万博は、4月から10月まで開かれている。開幕前から建設費の大幅な増額、海外パビリオンの建設遅れなど否定的な報道が相次ぎ、世間の関心も高くはなかった。ところが、開幕すると一気に注目が集まった。連日、会場ゲートに長蛇の列ができている。

万国博覧会のテーマは時代とともに変遷してきた。1851年にロンドンで開催された第1回は大英帝国の工業力を誇示する場で、その後も産業見本市として開催された。2度の世界大戦の時代は国威高揚の手段になった。戦後は、社会問題を考える参加型になり、70年の大阪万博は「人類の進歩と調和」をテーマに世界平和を考える機会となった。

21世紀は未来社会をどうデザインするかを提案する傾向が強まり、今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。大阪ヘルスケアパビリオンはこれを象徴する施設で、「リボーン」(再生)をコンセプトに、健康状態の測定のほか、未来のヘルスケアや健康に過ごすための食と文化を疑似体験できる。「パソナネイチャーバース」は、iPS心臓などの最新テクノロジーをはじめ、心身の健康などに関する展示をしている。

健康保険の業務に携わる私たちにとって、刺激を受けるとともに、知見を広げる絶好の機会だろう。

私も会場に足を運んだ。あの夏の思い出が蘇えった。たくさんの子どもたちが行き交い、目を輝かせていたのが印象的だった。いよいよ会期は終盤へ向かう。閉幕までのカウントダウンはさらに盛り上がりそうだ。

閉幕後は、大舞台で披露された最先端技術や人々が幸福に暮らすためのビジョンを、将来へ向けていかに発展させるかが重要となる。

半世紀前の山中さんのように、感動を体験した子どもたちが、未来を切り開いていくことを願う。叡智のバトンをつなぐことこそ、万博のレガシーだろう。

(K・T)