時評
健康保険制度の持続可能性を確実なものとするために
少子高齢化が続く中、2025年度以降も医療費の増大にともない現役世代の保険料負担が増えていく可能性が高い。
財政制度等審議会の財政制度分科会資料によれば、医療保険などの医療の給付費は2018年度の39兆円から2025年度には49兆円程度に増加し、2040年度には70兆円程度まで膨らむことが見通されている。また、医療費は2000年から2022年にかけて年2.0%で伸びている。その半分強を人口の減少や高齢化による部分が占めるが、人口要因以外も年0.8%と大きなウエイトを占めていることが示されている。
政策的には、この「人口要因以外」の部分に対し重点化・適正化を強化することで保険料負担を含め国民負担の増加を抑制していく必要があるとしている。人口要因以外の伸びの要因として、新規医薬品等の保険収載、医師数・医療機関の増加、診療報酬改定、過去の改定で収載された高額な医療へのシフトなどが挙げられている。
日本の医療保険制度は、所得によって医療サービスの受給に差が出るような不公平やその拡大を阻む仕組みが全体として備わっており、所得面の制約で医療サービスの需給が不必要に制約されている状況はみられない。しかし、これが、高齢化とともに、高額医薬品の普及や医療技術の高度化による医療費の増加で危機にさらされている。高額療養費は今年秋までに改めて制度の在り方を再検討し決定されることとなったが、その議論のなかで健康保険制度の持続可能性の危機が改めて示された。
前述の分科会資料には、持続可能性を確保するとともに医療や創薬の発展を図る観点から、「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心」の原則に基づき自助・共助・公助を適切に組み合わせていく必要が示されている。例えば、薬剤の自己負担の引上げ、実効給付率に着目した支え手の負担軽減につながる仕組みの導入や、患者負担の見直しなどが挙げられている。
制度が機能するためには、国民一人一人が医療について正しい知識を身に着けて適切に利用するリテラシーを上げることも非常に大切である。労働安全衛生法において、従業員は自らの健康状態に注意し管理し、安全に働くことができるよう主体的に行動するように求められている。
高額療養費の議論を契機に、幅広い視点や立場からの検討を通して国民の理解と納得を得て、健康保険制度の持続可能性が確実となる、公平でバランスのとれた仕組みが再構築されることを期待したい。
(T・K)