時評
全世代型社会保障の構築への期待
健康保険組合の仕事に携わり、約1年が経過した。恥ずかしながら、それまで自分がいくら健康保険料を払い、それがどのように使われているのか意識したことは一度もなかった。改めて、健保組合に身を置き、日本の医療保険制度について理解を深めていくと、すべての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことで互いに助け合う国民皆保険制度が、諸外国にはない優れた医療保険制度であることを実感している。1961年に確立され60年以上維持してきた制度であり、今では国民誰もが医療保険でどこの医療機関でも自由に受診できるのが当然だと考えている。諸外国では、患者が自由に医療機関を選べるフリーアクセスができない(制限されている)国があることにも驚いた。
その優れた国民皆保険制度が、予想を上回る急激な少子高齢化の進展により、危機的状況に追い込まれている。今年2025年は、団塊の世代がすべて75歳以上となり、75歳以上の推計人口は全体の約18%を占める超高齢化社会となった。2024年出生数の速報値は72万人(前年速報値より3.8万人減)とさらに少子化が進み、死亡数は162万人となり、推計で実に90万人もの人口減少となっている。今後100万人規模の人口減少が数十年続くとも言われている。15年後の2040年には老齢人口(65歳以上)が全体の約29%から約35%に増加し、ピークを迎えると見込まれている。社会保障費は増加の一途をたどり、その負担が現役世代へとかかっている。
医療費に目を向けると、2022年度(令和4年度)の国民医療費は合計46.7兆円で、前年に比べ3.7%の増加となっている。このうち、後期高齢者の医療費は18.2兆円と前年に比べ5.7%の増加となり、医療費全体の約40%を占めている。さらに、その財源をみると、約36%が現役世代の負担となっているものの、高齢者の窓口負担は約8%に抑えられている。政府は昨年9月に決議した高齢社会対策大綱にて、後期高齢者の窓口3割負担(現役並み所得)の判断基準の見直し(窓口3割負担の範囲拡大)は、2028年度までに実施について検討するとされている。果たして、そのようなスピード感での対応が適切であるのだろうか。
これまでの医療保険制度は、高齢者の医療を重視し窓口負担を軽減する制度にて運営されてきたが、少子化の進展による超高齢化社会においては、年齢ではなく負担能力に応じた負担(原則3割)の方向に舵を切り、全世代型社会保障の構築を目指すことが必要ではないかと思う。もちろん、低所得者への対応や高額療養費によるサポートなど、必要な医療はこれまで通り受けられるような配慮が必要である。
また、高齢者の経済的負担が増大すると、適切な医療が受けられないことにもつながりかねないが、必要に迫られない通院や多剤・重複投薬の削減など、医療費の適正化に一定の効果がありそうだ。健康保険組合連合会からも訴求されているセルフメディケーションの推進などにより医療費の適正化を図りながら、平等に負担し支え合う優れた国民皆保険制度を維持していく必要がある。とりわけ、これから高齢者に向かう我々バブル世代や団塊ジュニア世代が、今からセルフメディケーションを意識して取り組むことも重要である。
願わくは、全世代型社会保障を構築しながら捻出した財源で、子育て世代とこれから子どもを持とうとしている世代を経済的に支援し、少子高齢化の進展を抑制することができれば、より良い未来が拓かれるのではないかと思う。
(K・U)