健康セミナー
12月6日、健康教室を開催。滋賀医科大学 社会医学講座 衛生学部門 特任准教授
働く人びとに生じる腰痛 ~要因と予防対策~

北原 照代 氏
かつて腰痛は、重筋労働を行う職種で多発しましたが、自動化・省力化など働き方が変化した近年は、機械化できない福祉・医療職や運転業で増加しています。また、パソコンなどの情報機器の使用が増え、長時間の座作業による腰痛も問題となっています。
腰痛の発症要因には、動作要因(重量物取扱い、人の抱え上げ、拘束姿勢、不自然な姿勢など)、環境要因(寒冷、狭い作業空間、低い作業台、勤務条件など)、個人的要因(年齢、性、体格、基礎疾患、家庭での育児・介護など)及び心理社会的要因(精神的ストレス)があり、これらが相互に影響しあって生じます。
腰痛予防の国際基準は、腰痛が生じるリスクを適切に評価し、大きなリスクから優先的に減らしていくこと(リスクアセスメント・マネジメント)です。とくに、職場での一次予防としては、作業空間を確保する、作業台や椅子の高さを働く人に合わせる、台車や道具を活用するなどにより、腰にかかる負荷が小さい作業方法や作業姿勢に改善していくことが重要です。職場で取り組める腰痛・転倒予防体操は厚生労働省が紹介していますので、参考にしてください*1。

少子高齢化が進行し働き手不足が懸念される中、事業所では、「休業者の職場復帰支援」及び「治療と仕事の両立支援」も求められています。腰痛は遷延・慢性化しやすく、「完全に治してから職場に戻る」という考え方では、職場復帰が困難となることが少なくありません。復帰の目標は、痛みをゼロにすることではなく、痛みをセルフコントロールできるようにすることです。近年、慢性の痛みに対する治療として、薬物療法、認知行動療法、運動療法、手術、ブロック治療、鍼灸治療等様々な治療法の選択と組み合わせ(集学的治療)が有効とされています。慢性痛に対応できる近畿地区の医療機関は、「いたきんネット」*2で検索することができます。腰痛による長期休業者が職場復帰する際の、産業保健スタッフの役割としては、①本人の就業意欲を確認、②治療の継続を指示、③復帰への不安に対応、④段階的な復帰(訓練)を計画、⑤個人レベルの対策や工夫(睡眠の確保、入浴・保温、ストレッチ体操、全身運動、体力・筋力維持、禁煙、ストレス対策など)を助言・指導する、といったことが挙げられます。
腰痛による休職・離職や、痛みによる仕事への支障を減らすためにも、できるところから腰痛予防に取り組みましょう。
参考URL
*1 腰痛・転倒予防体操動画 「毎日3分でできる 転びにくい体をつくる職場エクササイズ(小売業、飲食店、社会福祉施設向け)」
https://safeconsortium.mhlw.go.jp/movie/
*2 慢性疼痛診療システム均てん化等事業近畿地区「いたきんネット」