時評
子ども・子育て支援金
「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が6月、参議院本会議で可決成立した。
所得制限を撤廃、支給期間を中学生から高校生世代まで延長するなど、児童手当を大幅に拡充。妊娠・出産時の10万円相当の給付を制度化するほか、親の就労の有無にかかわらず保育施設の利用が可能な「こども誰でも通園制度」が創設される。
財源となるのが「子ども・子育て支援金」だ。2026年度から医療保険料と合わせて徴収され、初年度は6千億円、27年度8千億円、28年度には1兆円に引き上げられる。法は成立したものの、支援金を巡り、幾つかの懸念が広がっている。
支援金は、世帯の子供の有無にかかわらず徴収されるため、子どものいる世帯からも支援金が徴収される。おおむね年収比例で徴収されるため、年収の高い世帯ほど支援金の額が多くなる。年収の高い世帯では、給付の増加よりも支援金の増加の方が大きくなるケースもある。
医療保険者(協会けんぽ、健保組合、共済組合など)から徴収されるので、被保険者や被扶養者を含めた家族全体が負担することになる。こども家庭庁の試算では、健保の被保険者一人当たりの負担額は28年度で月850円だが、事業主負担を含めると、一部の保険者では月1700円を超える負担増が見込まれている。
保険料の事業主負担分は、雇用者報酬の一部と捉えることもできる。事業主の保険料負担が増加するため、従業員の賃上げへの配分を削る懸念がある。岸田首相は、賃上げや歳出改革の徹底により、実質負担ゼロと説明する。政府は、国民に対し、実質的な負担額を含めた十分な説明と納得感を提供する必要がある。共働き世帯の場合や所得金額によっても負担額は異なる。丁寧な説明が求められる。
健保連の佐野雅宏会長代理は、改正子ども・子育て支援法は少子化対策の推進と現役世代の負担軽減という二つの課題に応える内容とするべきだと主張する。そのうえで、支援金は医療保険料とは異なることや、負担への説明責任を国が果たすことを明確化するよう要望した。
少子化対策が重要な課題であることは理解できる。しかし、支援金制度の運用には国民の理解と連帯感が不可欠である。政府には、少子化問題に対する強い連帯感を醸成することも求められている。
(T・A)