時評
全世代型社会保障改革について思うこと
私事であるが、先日親族の1周忌法要に参列した。長期にわたる難病との闘いの末、50歳の若さでこの世を去ったが、身内だけではなく友人、知人も多数集まり、闘病中も多くの人に支えられてきたことに改めて感謝した。
もちろん、我が国の社会保障制度が物心両面から支えてくれたことも忘れてはいけない。子育て世代の平均的な家庭であったが、年金、医療など社会保険を組み合わせる等、経済的な配慮がなされ、世界最高レベルの保健医療、最後は在宅で終末期医療を受けることができた。苦しくつらい闘病生活のうえ、残念な結果となったが、本人家族ともに最後まで希望を持って前向きに立ち向かうことができたことには感謝しかない。
世界に誇るべき我が国の社会保障制度も急速に進む高齢化と現役世代の減少により岐路に立たされている。社会保障給付費は増加の一途をたどり、令和5年度予算ベースで、134.3兆円となった。保険料収入は77.5兆円(うち事業主拠出36.5兆円)と6割程度に止まり、残りを公費に依存している。
令和5年度当初一般会計予算を見ると、年金、医療、介護、子ども・子育て等、社会保障関係費は、前年度より6200億円多い、過去最大の36.9兆円となった。歳出総額の3分の1、一般歳出の過半を占める最大の支出項目となっている。一方の歳入では、税収が6割程度で、3割を国債の発行(借金)による財源調達に依存している現状に照らせば、社会保障関係費の相当部分を将来世代の負担に先送りしていることになる。
こうした状況に、国を挙げて、持続的な社会保障制度=全世代対応型の社会保障の構築に向けた議論が活発に進んでいる。これに対し、社会保険の中核を担う健康保険組合(連合会)を始め、関係団体等からも様々な意見、提言がなされているが、共通するのは公正さ=公平な負担と給付だ。
現役世代の社会保険料負担には限界がある。企業頼み(保険料折半)の意味合いや、税との役割分担も判然としない。公費負担の仕組みも制度ごとに異なり複雑でわかりづらい。このように感じているのは私だけだろうか。
このところ少子化対策にスポットライトが当たっているが、総論(支援すべきこと)に異論はないものの、各論(財源)になるとたちまち空気が怪しくなる。財源を増やすことありきの議論になってはいないか。「改革」にふさわしく保険料と税の役割分担を明確にしたうえで、社会保障制度の構造を一から見直す、整理する必要があるのではないか。
自らを振り返り、あるいは周囲を見渡せば社会保障の枠組みに助けられていることがいかに多いか気付くであろう。世代に関係なく誰もが広く受益する社会保障の費用なのだから、あらゆる世代が広く公平に分かち合い、痛みを共有するのは当然のことだ。安定した財源を確保することについて、「総論賛成、各論反対」、「全体最適ではなく部分最適」に陥らないよう、また、中途半端に先送りすることがないよう、自分事、当事者として、積極的に議論を注視していきたい。
(T・M)