時評
異次元の少子化対策 財源論議に注目
東京56万5092円。鳥取35万7443円。
2021年度の東京都と鳥取県の出産費用(厚生労働省調べ)である。その差20万7649円。公的病院ですらこうなのだから、民間病院やクリニックでは推して知るべし。さらに差は広がるだろう。
お産は病気ではない。だから公的保険は適用されず、診療費はそれぞれの医療機関で自由に設定できる。都会と地方での費用格差の
だが、ここにきて出産育児一時金を保険適用にしようという話が出てきた。
政府は3月末、少子化対策の「たたき台」をまとめた。22年の出生数は79万9728人で、初めて80万人を切った。将来推計人口によると、59年には50万人を割る見通しだ。たたき台では、「これからの6~7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と位置づけ、「こども・子育て支援加速化プラン」に今後3年間、集中的に取り組むとしている。
その中で、出産費用については、「見える化」を進め、保険適用を含め検討するとある。少子化対策全体では、財源に社会保険料をあてる案が浮上。いよいよ目が離せなくなった。
健康保険組合連合会によると、23年度の健康保険の平均保険料率は9.27%となる見通しだ。介護と年金などを合わせた保険料率は29.95%。これに税負担(28.1%)を加えた国民負担率は55%を超える。
社会保険料への上乗せ徴収は、野党からは一斉に反発の声が上がっている。マスコミ各社の世論調査でも反対が賛成を上回る。
経済界や学界有志らでつくる「令和国民会議(令和臨調)」は、子育て支援について、「税を軸に安定的な財源を確保することを検討すべき」と提言する。しかし、岸田首相は、「消費税を含めた新たな税負担は考えていない」と表明。追加予算として年3兆円半ばという費用を、一体どこからひねりだすのか。まずは徹底した「歳出改革」が必要だろう。しかし、それだけでは賄いきれない。
財源を巡る議論は、4月に発足した政府の「こども未来戦略会議」(議長・岸田首相)で進められてきた。社会保険料を財源とすることについて、経済界からは「せっかくの賃上げ効果に水を差す」として難色を示す声が多い。有識者メンバーの十倉雅和・経団連会長は、「保険料金ありきではなく、負担能力をより広くとらえられる税を活用することが望ましい」と指摘。
連合の芳野友子会長も「税や財政の見直しなど、幅広い財源確保策を検討すべきである」と主張するなど、労組側も反対の意向を示していた。
そもそも目的外使用である。医療保険の場合、病気やケガに備えるためのものが、子育てなどの対策に使われる。受益と負担の関係はどうなるのだろうか。
少子化対策を巡る財源や制度設計は、今月まとめられる政府の「骨太の方針」に盛り込まれる。拙速に進めるがあまり、社会保険料への安直な上乗せなどということは、本来あってはならないはずだ。
結局、財源の具体的な内容など詳細は、年末の予算編成まで持ち越された。
各方面からの反対を受けてのことだろう。多くの理解が得られるよう、さらに議論を深めたい。
(Y・Y)