時評
医療保険制度改革で健保組合の負担はどうなるのか
2022年12月末まで厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会でさまざまな医療保険制度改革が議論された。そのなかで、健保組合の財政に直接影響を与える主なものは、
①出産育児一時金の増額と後期高齢者医療制度からの支援金の導入
②高齢者医療制度における高齢者負担の見直し
③被用者保険者間における負担能力に応じて公平に負担する仕組みの強化――である。
新聞紙上等では、この制度改革は「現役世代に偏る負担を軽くし、高齢者世代との差を縮める狙い」といったトーンで報道されているが、健保組合の負担はどうなるのであろうか。
①出産育児一時金は、23年4月に42万円から50万円に引き上げられる。健保組合全体への財政影響は200億円増と試算されている。24年度から後期高齢者も出産育児一時金の一部を負担する。23年度は国費により約40億円が支援措置される。
②高齢者負担の見直しでは、24年度以降の後期高齢者1人当たりの保険料と現役世代1人当たりの後期高齢者支援金の伸び率が同じになるように、高齢者負担率設定方法を見直す。我々が従来から主張していた内容である。これにより、後期高齢者支援金の増加が290億円ほど軽減される。ただし、団塊の世代が後期高齢者に入り、支援金が急ピッチで上昇するカーブが少し穏やかになるということであり、今の後期高齢者支援金が減るというものではない。
③前期高齢者納付金の報酬水準に応じた調整導入による財政影響は、3分の1報酬調整とした場合600億円増である。
高齢者拠出金に絞ると310億円負担が重くなる。高齢者拠出金の23年から24年への伸びは、健保連は1800億円増と見通していたが、その増額幅が2110億円に膨らむということになる。
救いは、③で議論された、現役世代の負担上昇の抑制・賃上げ促進のための健保組合等への支援である。年末の大臣折衝で430億円が盛り込まれた。
高齢者医療運営円滑化等補助金について、賃上げ等により一定以上報酬水準が引き上がった健保組合に対する補助を創設するなど、拠出金負担を軽減する。国としては、この支援金を企業賃上げ努力促進に利用したいという意向だ。しかし、物価が上がり、業績の苦しい事業主もあるなか、被保険者が賃上げも受けられず、拠出金の増加により健康保険料率も上がる、といったダブルパンチを受けることがないようにしたいものだ。
今回の改革の最大の意義は「現役世代の負担減」である。一方で、高齢者を支えるために現役世代の負担は相応であるべきという意見もあるだろう。しかし、これらを考えるにおいて、今の前期高齢者納付金等の制度はかなり複雑である。そして今回、さらに複雑怪奇になろうとしている。「現役世代がどれだけ負担するか」「高齢者がどれだけ自助するか」を全世代で考え議論すべきではあるが、自分がどれだけ高齢者に支援しているのか、いくら現役世代から支援してもらっているのかは分かりにくい。
自分の問題として考え議論するためには、現状の給与明細に基本保険料と特定保険料を示すことのほかに、例えば雇用保険のように別の徴収として独立させ、方法も単純にするなど、高齢者を支えるために各自がどれだけ負担しているのか、さらに分かりやすく見える化するのも一法だ。
先日、65歳の被保険者から「私が病院に行くと、健保組合は保険給付費に加え、その数倍の納付金を支払うことになるのですね。ご迷惑をおかけします。病院には行かないようにしなくてはいけないですね」と質問された。どのように返事したら良いものだろうか。
(H・K)