健康セミナー
10月24日、健康セミナーを開催。京都府立医科大学大学院 医学研究科 生体免疫栄養学 教授 内藤 裕二氏が「腸内細菌叢を標的にした健康長寿戦略」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
※本講演の動画は11月2日~12月2日までオンデマンドにて配信
腸内細菌叢 を標的にした健康長寿戦略

内藤 裕二 氏
日本が長寿国になった理由は、もともと健康な食品を摂取していたわけでも、日本に健康的な食事が伝統的に存在していたわけでもない。明治時代以前の日本人の平均寿命は50歳程度と短命であった。現在の日本人の健康的な食事は、もともとあったのではなく、栄養学を基本にした栄養・食生活改善の成果として手に入れたものと考えられる。食品に含まれる栄養素は、「糖質」「タンパク質」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」の5つに分類され、食事バランスガイドも作製され、すこやかな成長のためには、この5つの栄養素を食事から過不足なくとる工夫が必要とされている。
では日本人は幸福か?平均寿命は直線的に延び、2021年の平均寿命は女性87.57歳(世界1位)、男性81.47歳(世界3位)となっている。しかしながら、平均寿命と健康寿命の間には、女性で12年、男性で9年の不健康な時期があり、過去20年間ほとんど短縮していない。世界幸福度ランキングによると、日本の順位は2021年で56位と報告され、日本は決して幸福な国ではない。今こそ人生100年時代を目指した健康栄養学、特に環境要因も含めた食品化学を追求すべきである。

人の寿命には暦年齢とは別に、加齢に伴う種々の臓器の機能の低下過程を反映し、身体機能低下から推定される生物学的年齢があることが明らかになりつつある。生物学的老化スピード(PoA:Pace of Aging)は、個人差があることも明らかにされつつある。生物学的年齢の指標としては、DNAメチル化レベルを指標にしたEpigenetic Aging Clock、プロテオーム解析を基盤にした炎症時計、腸内細菌叢・環境を指標にした腸年齢などが提案されている。Epigenetic Aging Clockが8週間の食を中心にしたライフスタイル改善により減少する、つまり、食による若返りも報告されている。老化細胞の発見もあり、老化細胞を消失させる薬剤、ポリフェノール由来天然物などのセノリティクスも話題である。
DNAによらない生物学的年齢としては腸内細菌、腸内環境からみた「腸年齢」が注目されている。ヒトを対象にした長期のコホート研究においても、腸内細菌の多様性指数や腸内細菌科細菌の増加が寿命に影響することが明らかになっている。まさに、「自分の腸を知り、自分の腸を作る」時代になりつつある。まだまだ研究段階ではあるが、腸内環境を整えていくことには多くの要因が関与していることも明らかとなりつつあり、食・薬剤を含めた環境要因の関与が、意外にも大きな影響を与えている。生物学的年齢が測定可能な技術の開発の時代にあって、持続可能な健康な食に対する期待もある。
本講演は、周辺情報も含めて紹介し、健康長寿戦略を考えた。