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広報誌「かけはし」

健康セミナー

9月8日、健康セミナーを開催。大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 特任准教授 野口 緑氏が「みんなのやる気も結果も出る特定保健指導の考え方と方法」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

※本講演の動画は9月26日~10月26日までオンデマンドにて配信

みんなのやる気も結果も出る特定保健指導の考え方と方法

野口 緑 氏

脳卒中、心筋梗塞の発症者は、発症の20年前から肥満とそれに引き続く生活習慣病の複数のリスク要因が持続していたという研究結果や、過剰に蓄積された内臓脂肪から、これらリスク要因を惹起するさまざまなホルモンが分泌されるという医学的エビデンスなどをもとに、特定健診は制度化された。

特定健診は、10~20年先に脳卒中、心筋梗塞を発症する恐れがある人を健診で確実にスクリーニングし、血管障害を進める要因を減らすための介入が重要な目的である。しかし、特定健診がスタートしてから10年余りが経過するなか、やや大げさに言うと「肥満者を見つけて減量に誘うための制度」のような印象にさえなってきている。同時に、総合判定で対処方法を決めるといった、従来型の方法を継続させている医療保険者も散見される。

事業主により毎年実施されている定期健康診断は、事業主の安全配慮義務の遵守が第一義であるため、労働者の疾病や障害の早期発見に重きが置かれてきた。しかし、特定健診制度は将来のリスクを見据えた予防的スクリーニングと介入であり、健診の目的が大きく変化していることを改めて強調したい。労働者が健康に働ける期間をより延伸させるためには、こうした予防の観点からのスクリーニングと保健指導が極めて重要であり、特に健診結果を適切に評価できる専門職の確かなスキルが不可欠である。

健診データを評価する上で重要なことは、基準値と比較して「高い・低い」や「良い・悪い」と判断するモグラたたき的な見方ではなく、血圧や血糖などの各検査項目の数値の変化を関連させて評価し、どのような生活の変化によってこうしたデータ変化が生じるのかを考察することである。

同じ50歳の男性を比較しても、居住地域や所得、職務内容、生活リズムなどの社会経済背景が異なれば検査結果は同一ではない。どのような調理法の食品を、どのような頻度や量で摂取しているかによって健診結果が作られるからである。何気ない生活習慣と健診結果との関連や、健診結果から判断できる血管障害の将来リスクを、対象者が実感を持って理解できなければ、主体的な生活習慣の修正は起こらない。

行動変容を起こす保健指導には、いくつかの条件が必要であることを我々は研究で明らかにしてきた。検査結果から、どの臓器や血管でどのような変化が生じていると推測できるのか、また、それを放置することで、体のどこで何が起こる可能性があるのか、これらを伝えるプロセスは保健指導の重要な要素となる。

我々は、こうした要素を入れた効果的な保健指導プログラムを標準化し、全国43自治体の生活習慣病重症化ハイリスク者を対象に行ったクラスターランダム化比較試験(J-HARP研究)で、従来型の保健指導と比べて有意に行動変容を起こすことを立証した。また、同様のプログラムを継続した集団で医療費の伸びの抑制も観察した。改めて、保健指導を見直してみることにヒントがある。