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広報誌「かけはし」

時評

コロナ禍と公立病院への思い

2022年度が幕を開けた。弊組合の予算における単年度収支は赤字である。大きな割合を占める拠出金の負担、保険給付費の増加。これに対し、ある程度制御が可能な保健事業費の無駄を徹底して切り詰めたものの、運動の奨励や健康教育などの前向きな支出を減らすわけにもいかず、積立金の繰入れで帳尻を合わせることにした。2022年危機の影響が直撃するであろう23年度を思うと、今から頭が痛い。

さて、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって2年余り。強い感染力と毒性、更には性質が異なる変異株の出現と共に繰り返す感染者急増、最も期待されたワクチンの二回接種でも防ぎきれないブレイクスルー感染など、予測や制御が困難な事象が相次いで今日に至っている。長期間続く戦いの最前線におられる医療従事者の皆さまのご尽力には、ただただ感謝しかない。

この間、コロナ感染症に対応できる病床の不足が何度も生じた。個人的には、その度に思い出すニュースがある。厚生労働省が19年9月に公表した、診療実績が乏しいとする公立・公的病院424カ所の実名リストがそれだ。再編や縮小を促すのが目的という。

前例のない荒業の背景として、公立・公的病院の赤字体質に加え、病床の過剰感および、「急性期」と「回復期」の病床数のアンバランスが指摘されていた。急性期病床は、入院患者7人に対して看護師1人が常勤する体制など、看護師配置の手厚さが特徴だ。診療報酬は、急性期一般入院料1で1日1650点(令和2年改定)と、入院料の中では高い。これに対し、25年頃から「回復期病床」のニーズが高まると予想され、急性期病床の回復期病床への転換が必要とされている。また、地域の状況に応じて、患者が各病床(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)を転院し、最適な医療が受けられる体制の整備も重要といえる。

しかし、コロナ禍により、この議論は一旦棚上げになった。コロナ治療の中核を担う全国の第二種感染症指定医療機関の9割が国、公立・公的病院であるという現実の重さがそこにある。  

都市部、地方の別なく公立・公的病院、中でも地域住民からの地元公立病院への期待は大きいに相違ない。一方、そこには税金が投じられている。今は緊急対応としてのコロナ空床補償で収支が改善するケースが見られるものの、これとて原資は税金である。そもそも課題や無駄があるなら効率性を考えて再編しなければ、医療費の抑制が図れない。  

公立病院の組織や定員の変更、公務員の身分を有する医療従事者の配置転換は、民間より制約が強いと言われる。しかし、コロナ禍収束後も高齢化によって生じる課題が緩和されるわけではない。統合などの抜本的な改革は更なる困難を伴うが、近在の大学病院や複数の公立・公的病院と連携した改革により、地域の実情に適合した体制構築を進めている先行例もある。

健康保険法の基本的理念は、こううたう。「高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応」「国民が受ける医療の質の向上」―。これらは、医療提供者にも共通であると強く感じている。  

時代に即して変革を重ねつつ、自然災害や次なる新興感染症といった緊急時にもしっかりと期待に応えられるよう、コロナ禍からも様々な智慧を手に入れて、公立病院の明日に活かされることを願ってやまない。それが医療を必要とする人々の安心につながり、同時に社会保障費を通じて医療体制を支えている現役世代の負担軽減にもつながるのであるから、なおさらそう思う。  

(O・S)