時評
マスクのある風景
朝の通勤電車でスマホを見つめる人たち、近所のスーパーのレジ待ちの列、歓声を上げて走って下校する小学生たち、帰りを急ぐ人が行き交う駅前の交差点。どれもありふれた日常で、私たちがいつも目にしている風景だが、2年前とは明らかに違っている。皆の顔にマスクがあることだ。しかし、この2年近くの間に、マスクのある姿が私たちの日常の風景となってしまった。
日常の変化は経済活動にも及び、標準報酬月額や標準賞与額の減少など、健康保険組合の事業運営にも大きな影響を与えた。特に2020年の疾病予防事業については、健診機関の休診や受診控えの影響もあり、受診者が減少した。
このようななか、二つの興味深い報告を目にした。
一つは、昨年の11月に国立がんセンターから公表された報告書である。
報告書によれば、新規にがんの診断や治療を受けた件数が、これまで10年以上継続して増加してきたが、20年は前年と比べて減少している。これを受け、厚生労働省は「がん患者数そのものが減少したことに起因するものではなく、新型コロナウイルス感染症に伴う影響によりがん検診の受診者が減少し、早期がんを中心にがん発見数が減少した可能性が高い」と分析。「がんの早期発見、早期治療に向けて、感染状況による受診行動への影響を限りなく少なくするなど受診勧奨に努める」との方針を示している。これは受診控えが顕著となった時期に一部の識者から指摘されていたが、それを裏付ける結果となった。
20年度がん発見数の減少が、今後どのような形で健康保険組合の財政に影響を与えるかは定かではないが、必ず影響あるものと覚悟して備えなければならない。
もう一つは、米疾病対策センターの新型コロナウイルスに関する資料(20年6月)である。
生活習慣病などの基礎疾患のある人は、ない人と比べると入院率は6倍、ICUの利用率は6倍、死亡率は12倍と報告されている。
基礎疾患のある人が新型コロナ感染症に感染した場合の重症化リスクは、すでに多くの人が認識するところとなっている。生活習慣病などに内在するリスクの恐ろしさを改めて思い知らされた。
被保険者およびその被扶養者の健康の保持増進を図ることは、健康保険組合の大きな使命である。日常となったマスクのある風景を見ながら、その重要性を再度認識して、疾病予防事業に取り組んでいく思いを強くした。
(M・Y)