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史上初の緊急事態宣言が発出される事態となった新型コロナウイルス感染拡大。全国の医療従事者や国民の努力により、感染の拡大を一旦は抑えることができた。一日も早い終息とともに、皆の無事・安全を心から願っている。
日々感染拡大の深刻さが報じられるようになってからも、我々健康保険組合は公的医療保険制度を担う公法人としての役割、責任について十分認識し、業務に取り組んできた。2月26日には、厚労省保険局の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に対する医療保険関係事業者の対応について」によって、「保険者は被保険者証の発行など、迅速な処理が必要な業務については、遅滞なく行われるよう留意する」等が国の方針として明確に示された。
このような保険者としての責任を全うする一方、多くの健保組合はテレワークなどの感染拡大防止策をとれないまま、業務を続けていたものと思う。
機微な個人情報に直結した基幹システムをネット環境から切り離しておかねばならない。その制約が、健保組合をテレワークなどICT活用業務から遠ざけてきた。
また、健保組合は加入者からの保険料で運営していることから、人員増強になかなか踏み切れない。余裕のない職員数で日々の業務を回している組合も多いと思う。結果、今回のような事態でも、十分な交代勤務体制をとれず、多くの職員が感染リスクの緊張を強いられながら、出勤を余儀なくされたであろう。
そのようななか、健保連からの要望を受ける形で、4月6日に厚労省保険局保険課から事務連絡「健康保険組合における事業継続について」が発出された。「外出自粛要請が拡大されたとしても、不急以外の業務は遂行されなければならない」とする方針が改めて示された一方、一定の基準を満たしたうえでのテレワークの導入・実施を検討されたい、という。だが、これを何度見ても、どれだけの健保組合がその基準で対応できるのか、疑問である。
続く4月13日には、政府の出勤7割削減要請を受け、「業務を継続することを優先した上で、」「可能な範囲で出勤者7割削減に取り組んでいただくよう」との事務連絡が発出された。具体策は個々の健保組合に委ねられた形だが、業務を続ける以上、7割はもちろん3〜4割でさえ、あるいは全く、削減したくてもできずに、頭を悩ませた組合も多かったと思う。
新型ウイルスの感染拡大という、歴史的な国難の解決に取り組んでいる厚労省のご苦労は察するに余りある。だが、同じく医療保険制度の維持のため、毎日職員の通勤などでの感染リスクという不安と闘いながら、業務に取り組んでいる健保組合に向けて、もう少し現実的な策、あるいはその解決への具体的な道筋などを求めるのは酷であろうか。
それでも一部の健保組合では、テレワークや交代勤務を実行されていると聞く。こうした組合には、ぜひ具体的な実施内容、方法などを積極的に発信、共有していただきたい。実施できていない組合は、これらの実績を参考にして、今後の取り組みや体制を考えていく必要があろう。
ただ、現状のままではテレワークなどで処理できる業務は極めて限定的である。また、人員をそう簡単には増やせまい。やはり健保組合も、仕事の仕組み、方法等について、改めて考える時期に来ているのではなかろうか。
個人情報保護の壁は高く、とても個々の健保組合が単独で対処できる話ではない。システム面も、バラバラに対応したのでは、混乱を招く。これこそ、厚労省、健保連、システムベンダー、そして健保組合自身を含む全体で検討・取り組まねばならない問題であろう。恒常的なものが無理ならば、緊急事態下における期間限定的共通ルールのようなものでもよい。個人情報とともに、職員の生命の安全も保護されなければならない。
近代史上最悪のパンデミック(世界的大流行)とも言われるスペイン風邪の流行は、健康保険法施行前であった。今回は日本の健康保険が経験する最も手ごわい感染症である。このような事態はいつまた起こるか分からないという認識のもと、それに対処できる体制を関係者が総力を挙げて検討・準備していく。今、健保の運営にもこうした危機管理が求められているのは間違いない。 |
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(K・F) |
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