広報誌「かけはし」

■2020年4月 No.583
時評

次世代にバトンを

 桜の季節に登校する新入生の姿を見かけるのは、いつもほほえましいもの。この子供たちが大人になる頃まで、今の社会保障制度が持続してほしいなぁと、ふと考えた。
 この4月から診療報酬が改定された。医療の公定価格として議論が重ねられ、実施されたものである。長い時間をかけていろいろな角度から、それぞれの立場から意見を出し合い合意・決着した。
 何より、医療従事者の負担軽減・医師等の働き方改革の推進を重点課題とする過去に例のないものとなった。また、患者や国民にとって身近で、安心・安全な質の高い医療の実現をも標榜した内容となっている。さらには、高齢化により増え続ける医療費に歯止めをかけるべく、薬価制度の改革などが盛り込まれている。
 ただ、議論の過程で、どうもしっくりこないというか、何か違和感を覚える場面があった。
 診療側が健保連の医薬品に関する意見提案に反論し、その後続いた「応酬」である。それぞれの主張は、ネットで検索するとすぐに分かるのでここでは省くが、内容ではなくやり取りである。なにもここで、健保連の主張が正しいなどと書く気はない。健保組合の職員としてより、社会の一員として感じたことである。
 健保連の薬剤への提言について、その前提となるデータや診療の考え方などをめぐって、激しい議論が交わされたが、一方は、権威主義的な感じのある発言になってしまい、相手方を否定したのみ。これに対して、もう一方は従来の主張を採用するよう求めるにとどまった。お互いがお互いを尊重しあいながらの議論ではなかったためであろう。国民皆保険制度を存続させるという大前提では一致しているはずであるのに、次世代へ引き継ぐために話し合おう、持続性を高めようとの議論ではなかったように感じ取れた。
 今、世界では国連で提唱されたSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいる。背広の襟にカラフルな丸いバッジを付けた方をよく見かける。また、環境問題では、16歳のグレタ・トゥンベリさんが、世界の指導者に強く発信している。
 我々世代、保険制度の恩恵を受けている大人たちは、次世代の若者たちへ、今の社会保障制度を持続させ届ける大きな役割を果たすべく、実りのある議論をし、行動すべきではないだろうか。
 希望に満ちた新入生たちが我々世代になるときに、受け継いだ制度を誇りに思えるようにしたい。
  (H・K)