広報誌「かけはし」

■2020年2月 No.581
時評

「人生100年時代」にふさわしい
全世代型社会保障制度

 最近よく耳にする「人生100年時代」。元々は、2016年に、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略」で提唱した言葉だそうだ。100歳まで生きることが一般化する時代が到来し、それを前提とした人生設計の必要性を論じている。この社会では、年齢による区切りがなくなり、学び直しや転職など人生の選択肢が多様化すると予想している。
 日本では、本の発売と同時期に小泉進次郎氏がこの言葉を使用したことで広く浸透し、2017年9月には安倍首相を議長とする「人生100年時代構想会議」が設置され、全世代型社会保障の実現に向け、消費税の使途変更を打ち出すなど、政策への反映が進められた。2019年9月には、政府が「全世代型社会保障検討会議」を設置し、「人生100年時代を見据え70歳までの就業機会の確保、年金受給年齢の選択肢の拡大、さらには、医療、介護など、社会保障全般にわたる改革を進める」方針を打ち出した。有識者等からの意見や政府・与党における議論を踏まえ、12月19日に中間報告を取りまとめ、公表した。
 このうち医療保険制度に関係する内容では、焦点となっていた後期高齢者の自己負担のあり方について、一定以上の所得者の自己負担額を2割に引き上げる方針が盛り込まれた。我々、健保組合においても、11月に開催した「2019年度健康保険組合全国大会」のスローガンの1番目に、「皆保険の維持に向けて、まずは高齢者の原則2割負担の実現」を掲げ、主張してきたところであり、政府が、2割負担導入の方向性を打ち出したことは評価できる。また、紹介状なしで大病院を外来受診した場合の定額負担制度の対象を拡大する方針についても、保険者の負担軽減を図る見直しの観点から評価したい。
 しかしながら、すべての病院で外来受診時に一律で窓口負担を求める「ワンコイン」の導入や、市販品類似薬の保険上の取り扱い等、それ以外の議論が進んでいないことは残念である。今後、国民皆保険制度の支え手の中核である健保組合が、将来展望を見い出せるよう、「給付と負担の世代間アンバランス」や「保険給付範囲の見直し」等についても、改革議論を進めていただきたい。
 高齢化の進行と医療の高度化等により高齢者医療費は増加の一途をたどり、それを賄うための現役世代の拠出金負担増等により、健保組合の財政は、厳しい状況に直面している。団塊の世代が後期高齢者に到達するいわゆる「2022年危機」が目の前に来ている、まったなしの状況である。今年の夏には、全世代型社会保障検討会議の最終報告が予定されている。また、「骨太方針2020」の発表も予定されている。遅くとも来年の通常国会に必要法案が提出され、会期末の2021年6月までに法案化されれば、なんとか2022年に間に合う。今後、検討会議の最終報告および成案化に向けて、具体的な議論が深まることを期待する。
 人生100年時代にふさわしい持続可能な全世代型社会保障制度は、従来からの仕組みの改善にとどめるのではなく、思い切った新たな仕組みの変革・構築が必要と考える。政府においても、痛みを伴う改革から目を背けることなく取り組んでいただきたい。
  (M・M)