広報誌「かけはし」

■2019年10月 No.577
時評

健保言葉考

 NHKテレビの教養バラエティー番組「チコちゃんに叱られる!」の視聴率が安定して10%を超え、快調だ。5歳の女の子の素朴な疑問。答えられないと、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と一喝されるが、その解答には思わずうなずく。予備校講師・林修さん、ジャーナリスト・池上彰さんらの番組も、やさしい解説で人気を集める。
 翻って健保組合。一年前、全く畑違いの職場から異動直後、見習い職員として出席した決算の組合会は、専門用語の数々が理解できず、困った。今年は新人議員も多い。便利な用語集などはなく、資料をひっくり返して、分かりやすい説明を目指した。
 前年度比マイナスだった保険給付費は、療養給付費の減少が理由だった。この二つの給付費の違いについては「主に、医療費や出産育児一時金に充てられる保険給付費は、療養給付費が減って前年度を下回りました。療養給付費は、皆さんが診療機関などに払う医療費のうち、健保が負担する7割分のことです」と説明した。
 傷病手当金は「病気やけがで働けないときに支給」。法定準備金は「保険給付費の増加など予期せぬ出費に備えるため確保が定められています」とした。
 一番分かってほしかったのは、国の高齢者医療への拠出金だ。仕組みが複雑なうえに、額が大きく健保組合を苦しめている。
 前期高齢者納付金は「納付額は16年度の当健保の65〜74歳の医療費をもとに算出します。当健保では約1%しかいない前期高齢者が、全国平均の約15%いるとみなして、納めなければなりません。健保は加入者OBも入っている国民健康保険へ財政支援しなければならない、というのが国の理屈です。当健保は加入している前期高齢者の医療費を払い、全国平均との差額約14%分を納めています」。
 後期高齢者支援金も「17年度から健保加入者の収入が多いほど負担額の多い総報酬割が適用され」「前期高齢者納付金と合わせて支出の半分近くを占めています」と補足した。
 精算分までは説明できず、十分とは言い難いが、「自分たちの保険料は、半分も持っていかれるのか」と驚く議員がいたのは収穫だった。
 健保連がまとめた19年度の健保組合予算早期集計結果によると、全健保組合の高齢者医療への拠出金は総額3兆4435億円。20年度政府予算の一般会計概算要求額と比べても、農水省(2兆5234億円)を上回り、復興庁の約2倍、外務、法務両省の4倍以上という巨額だ。健保組合の義務的経費に占める拠出金の割合は平均45.38%、238組合が50%以上だった。
 健保連は政府に対し、高齢者医療制度の負担構造改革を訴えている。だが、その仕組みまで踏み込んだ報道や論評はほとんどない。組合議員や加入者の多くはよく分からないまま、保険料を給料から天引きされ、負担は限界に達している。
 だからこそ、健保組合が支出で使われる言葉の意味や負担の構図を丁寧に説明し、健保財政の危機を理解してもらう必要がある。そうすれば改革に向け、戦う輪が広がっていくに違いない――。くどくど説明しながら、そんな思いを強くした。
 ポピュレーションアプローチ、コラボヘルス……。保健事業でも、聞き慣れない言葉にたびたび出くわす。辞書はもとより、新聞・通信社発行の用語集、「現代用語の基礎知識」にすら載っていない。
 いささかうんざりするが、ひとつひとつかみ砕いて、組合議員、加入者に理解してもらい、健康づくりを進めたい。厚労省や健保連など「仲間うち」にしか通じない言葉だけで語りかけても、決して伝わらない。
  (S・N)