広報誌「かけはし」

 
■2018年9月 No.564
小児期の齲蝕(うしょく)と歯周病の予防・治療の最新情報

〜人生100年時代に向け、更なる歯の寿命延伸のために〜

 8月7日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。大阪歯科大学 歯学部 小児歯科学講座 主任教授 有田 憲司氏が「小児期の齲蝕と歯周病の予防・治療の最新情報〜人生100年時代に向け、更なる歯の寿命延伸のために〜」をテーマに講演されました。参加数は、32組合・41人。(以下に講演要旨)

 
 
有田 憲司 氏
 わが国は、世界屈指の長寿国であり、近い将来には人生100年時代に入ることが予想されている。少子超高齢・人口減少社会では、すべての国民が元気に活躍し続けられる社会を作る必要があり、健康日本21(第二次)に「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が盛り込まれている。しかし、寿命と健康寿命との乖離は、まだ約10年ある。歯の健康を保つことが健康寿命の延伸に寄与できることが知られているが、現状の歯の寿命は大臼歯で約65歳、切歯で約75歳であり、歯の寿命を延伸することが喫緊の課題である。
 歯の喪失の二大要因は齲蝕と歯周病で、これらは生活習慣病である。齲蝕病原細菌が感染・定着するのは生後19から31カ月頃で、歯周病原細菌が感染・定着するのは14から20歳である。小児期から両疾患の予防として好ましい生活習慣を身につけることは、将来の循環器疾患、糖尿病など成人期の生活習慣病の発症予防と重症化予防となり、延いては健康寿命の延伸につながる。
 歯は、飲食物を摂るごとに歯垢(プラーク)によって「脱灰」し、同時に、唾液中のカルシウムおよびリンイオンによって「再石灰化」している。齲蝕病巣は、脱灰量が再石灰化量に増さった結果生じる。ところが、齲蝕治療は伝統的に完全な病巣の外科的除去と、人工物による修復によって行われてきた。しかし、外科的アプローチは歯髄壊疽、二次齲蝕および脱離などによる終わりのない再治療サイクルによって歯の寿命を短くしてきた。近年、齲蝕学の発展と歯科材料の進歩、公衆および個人の口腔衛生の徹底、患者管理型医療の発展の結果、初期齲蝕の再石灰化を中心とした歯質と歯髄を保存する生物学的アプローチへと変化してきた。本アプローチへの変革によって、歯の寿命を飛躍的に延伸できる可能性がある。
 齲蝕も歯周病(歯肉炎と歯周炎)も、ほかの生活習慣病と同様に重症化するまで無症状で進行する特徴があり、早期発見には歯科医師による定期的な健診が必要である。また、両者とも口腔常在細菌が原因であるため、その予防方法は同じくプラークコントロールを中心とした口腔内細菌叢の改善である。ただし、自己流の歯みがきでは予防効果は少なく、現代人の食生活において、確実に予防するには専門家による指導を受ける必要がある。いまだに、わが国ではほとんどが治療を目的に歯科受診しており、定期的に健康診断とクリーニングを受けている者は8%で、欧米の80〜90%と比べ格段の差がある。
 また、国民医療費における歯科医療費は7%に過ぎないが、歯周病の医療費は、がんや循環器の医療費よりも高額であり、齲蝕と歯周病の予防は総医療費の抑制に役立つことが認められている。結論として、歯の喪失を防止して健康寿命を延伸するためには、まず「かかりつけ歯科医」で、乳幼児期から高校卒業まで定期的に歯科受診することで、小児期の齲蝕と歯周病のない健康な口腔を育むことが大切であると考える。

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