広報誌「かけはし」

 
■2018年7月 No.562
ロコモ・メタボ予防と医食同源

〜健康寿命を担う骨格筋から考えよう〜

 5月31日、新梅田研修センターで健康セミナーを開催。大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 教授 山地 亮一氏が「ロコモ・メタボ予防と医食同源〜健康寿命を担う骨格筋から考えよう〜」をテーマに講演されました。参加数は、51組合・63人。(以下に講演要旨)

 
 
山地 亮一 氏

なぜ骨格筋に着目しているのか
 骨格筋は人体において最大の組織であり、成人男性では体重の40%、女性では35%を占める。骨格筋の主な役割には、姿勢の保持や身体を動かす身体活動機能以外に、インスリンの標的組織としてグルコースを代謝して、血糖値を調節する機能がある。加齢に伴って、あるいはデスクワークのような座りがちな生活スタイルを続けることで骨格筋量が減少すると、運動機能や糖代謝能が低下する可能性が高まる。したがって、骨格筋を量的・質的に維持・増加することは、メタボリックシンドローム(通称メタボ)だけでなく、ロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称ロコモ)に対する予防・改善の対策となる。運動することが最善の対策となるが、厚生労働省の「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、20歳以上の運動習慣のある者の割合は、男女ともに60歳代以上で平均値より高いが、20〜59歳までのすべての年代で平均値より低く、男性では30歳代、女性では20歳代と30歳代で最も低い割合であった。つまり、慢性的な運動不足を考慮すると骨格筋量の低下が危惧される人は高齢者に限られず、すべての人が対象となる。

医食同源とは
 広辞苑によると「医食同源」とは、「病気を治すのも食事をするのも、生命を養い健康を保つためで、その本質は同じだということ」という意味である。食事を構成する食品成分は、我々にとっては毎日摂取する外来の化学物質であり、健康に影響する外部要因である。したがって、健康で長生きするためには科学的根拠に基づいた食事をとる必要がある。食品成分には、(1)栄養機能、(2)感覚機能、(3)生体調整機能―の三つの機能がある。近年、運動習慣の改善のほかに、食品に含まれる生理活性物質によって身体の機能をサポートすることに期待が寄せられ、上記の(3)の機能として特定保健用食品や機能性表示食品に注目が寄せられている。

骨格筋と食
 骨格筋の量は、骨格筋を構成する筋線維におけるタンパク質の合成と分解のバランスによって調節されている。タンパク質の合成が分解を上回ると筋肥大を、分解が合成を上回ると筋萎縮を引き起こす。必須アミノ酸のロイシンは主要なタンパク質合成経路のmTORシグナルを活性化し、筋肥大に寄与する。一方で、高齢者を対象としたイタリアでの疫学調査(InCHIANTI)や米国での疫学調査(WHAS)は、血中のβ-カロテンを含むカロテノイド濃度と筋力に正の相関があることを示したが、その分子機構は不明である。我々は、β-カロテンを摂取したマウスのヒラメ筋(遅筋)においてタンパク質合成が促進し、筋肥大を伴った筋量の増加と筋力の上昇が起こることを見出し、その分子機構にmTORシグナルが関与することを突き止めた。骨格筋が食品成分によって量的・質的に維持・増加する分子機構を理解することは、その食品成分の有効性を理解することにつながる。これからの時代、消費者は積極的に情報を取得して理解することで、食品成分によるヘルスベネフィットを受ける取り組みが必要である。

※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。