広報誌「かけはし」

■2018年5月 No.560
時評

現役世代も「全世代」の一員

 昨年、健保連は、団塊の世代の人たちが後期高齢者となる2025年度に向けた医療・医療保険制度改革について主張を作成、発表した。そのなかにある試算では、2025年度の医療保険医療費は53.8兆円で、2015年度比、14.3兆円増となっている。その財源としては、保険料負担が、2015年度比、7兆円増の27.8兆円であり、公費(税、公債)は、同じく5.8兆円増の18.4兆円となっている。
 また、この試算では2025年度には、協会けんぽの経常収支均衡保険料率は12.5%に、健保組合の同料率は、平均で11.8%にまで上昇するとなっている。また、協会けんぽの料率である12.5%以上の組合は380組合にもなるとされている。健保組合の存続が危ぶまれる状況である。
 他方、今年1月に開催された経済財政諮問会議の内容を内閣府が公表した。そのなかに「中長期の経済財政に関する試算」がある。この試算には、前提の異なる「成長実現ケース」と「ベースラインケース」の二つがある。
 現実的なベースラインケースの数字をみてみると、まず、消費税については、2019年10月に税率を8%から10%に上げる以降は、10%据え置きの前提としている。
 その前提で、2025年度には、国の税収は70.9兆円になり、2015年度の税収約56兆円比、約15兆円増としている。これだけ税収が増えるのであれば、健保連の試算にある5.8兆円増は十分賄え、健保連の主張するとおり、さらなる公費投入による現役世代への負担軽減も可能性があると思った。
 しかし、これはぬか喜びで、同じ資料に社会保障関係費の試算数字も記載されており、その数字は、2025年度に39.8兆円と2015年度の約31兆円から9兆円弱の増加としている。社会保障関係費は、医療だけでなく、年金や介護も対象としており、健保連の試算にある公費負担の5.8兆円すら、その実現の見込みは薄いのではと危惧せざるを得ない。
 社会保障関係費の財源としては、消費税が頼りであるが、8%から10%への消費税増税は景気に配慮し、過去2回延期された。しかしながら、健康保険料など社会保険料の負担増があり、景気の伸びの足を引っ張っているとの見方がもっぱらである。2月の経済財政諮問会議で、安倍首相は、来年10月の消費税増税による景気の落ち込みを回避すべく、具体策を政府一丸となって検討する必要があると訴えたとのことである。これを受け、どんな対策が行われるのか分からないが、社会保険料の負担増が続けば、これまで同様、景気にはマイナスの影響を与えるであろう。まずは、消費税増税までに、医療保険制度に何らかの対策が必要ではないか。
 また、安倍首相は、昨年11月の所信表明演説で「社会保障制度を、お年寄りも若者も安心できる『全世代型』へと大きく改革する」としている。今のところ、教育負担の軽減や幼児教育の無償化などが注目されているが、健保組合が訴えている、医療保険制度の改革により、現役世代の負担を和らげるのも全世代型の社会保障改革の一環であるはずだ。
 健保組合の主張を、国は真摯に受け止め、早急に、そして2025年に向け、全世代が安心できる改革を進めることを願うものである。
  (A・K)