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4月の診療報酬改定に向けて、「遠隔診療」が議論されてきた。今回の改定の目玉ともいわれ、政府の骨太の方針や未来投資戦略などにも盛り込まれ、安倍首相が言及するほど医療改革のトピックともなっている。
遠隔診療については、21年前の平成9年に「患者側の要請に基づき、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えない」と、厚労省から通知されている。当時は、離島など対面診療が困難なケースや、慢性期の患者に対面診療と組み合わせを行うこととした限定的な取り扱いであった。その後、ICT(情報通信技術)社会が急激に進行するなか、有効な手段として昨年7月、厚労省は「情報通信機器等を用いた診療(いわゆる遠隔診療)について」を通知し、その取り扱いを明確化してきた。介護も含めて高齢化社会の医療事業に、民間企業などがICTをツールとして参入している実態や、現在の医療の課題、つまり在宅医療の推進や医師の偏在問題などが背景にあるものと考えられる。
かねてより、医療提供側は遠隔診療の拡大に対して、対面診療を原則否定するものと指摘し、対面なしの運用に懸念を抱いていた。また、医療の質が担保されないとする見方や、ICTによる規制緩和の弊害とその導入拡大を危惧する意見も出されていたようである。
そのようななか、診療報酬改定を間近に控えた昨年12月、厚労省はオンライン診療への整理案を示し、中医協において7項目のルールとして、その取り扱いをめぐる議論に終止符を打った。これによって、事実上、遠隔診療は本質的な議論を棚上げして、診療報酬上の評価の議論へと移っていった。
今後をにらんで、性急な導入拡大によるつまづきや、禍根を残したくないとの厚労省の思惑があってのことかもしれない。しかし、社会保障費の増大、特に医療費の問題は待ったなしのところにきている。
今国会、冒頭の施政方針演説で安倍首相は「少子高齢化は国難というべき危機」とまで発言された。医療の支え手が減少し、反対に医療を必要とする高齢者がますます増加する。在宅医療の推進、重症化予防も見据えての患者の利便性向上など、次なる時代への議論を終わらせてはならない。確かに、遠隔診療には医療事故や見落としなどのリスクもある。対面診療の必要性を否定するつもりはないが、対面診療の補完と決めつけてしまうと、新たな活用策も見出せなくなってしまいそうでならない。
時代の流れは性急である。2025年まであと7年、迫り来る医療費問題に向けて悠長なことは言っておられない。スマホで育った若者世代に新たなICTを生かした診療を定着させるチャンスである。働き方改革が叫ばれるなか、仕事に追われ医療機関で受診する機会が作れず重症化することを防ぐこともできる。さらに、遠隔診療を予防医療とマッチングさせれば、大きな効果が生み出せることもできるような気がする。
遠隔診療を診療報酬上の評価の一面の議論に終わらせず、これからの医療の在り方全体を考えるきっかけにして、医療改革ツールとすることを望みたい。 |
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(H・K) |
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