広報誌「かけはし」

■2018年2月 No.557
時評

制度改革が健康保険組合の費用負担につながらないことを求む

 年が明けて、はや2カ月近くになったが、新たな年となり、将来へのビジョンを思い描いた人も多かったのではないか。私も、新年の新聞記事から将来に想いをはせてみた。記事では、「AI(人工知能)とIOT(あらゆるモノがネットにつながる)により身近な新製品・サービスが続々と登場することで、生活様式が大きく様変わりしていく」という内容であった。
 AIにより日々の健康状態を診断し、きめ細かな保健指導を行うことにより、生活習慣病が大幅に減少する。健診技術の進歩で病気の早期発見・早期治療が進み重病患者が減少する。その結果、医療費が減少し、健康保険組合の財政状況は大きく改善される。そこから思い描いたのは、健保組合にとって明るい未来である。
 しかし、現実に立ち返ると、多くの健保組合において、非常に厳しい財政運営を強いられている。
 平成30年度は特定健診・特定保健指導の第3期がスタートし、データヘルス計画が第2期になり、本格的な取り組みが求められる。
 特定健診・特定保健指導やデータヘルス計画は、医療費適正化計画の一環であり、健保組合にとって、当然取り組んでいかなければならないことである。しかしながら、財政的に困窮している健保組合においては、組合を維持するために保健事業を最低限のものに縮小し、人員の削減を図ってきており、特定健診・特定保健指導の充実や、データヘルス計画に取り組む金も人もないのが実情ではないだろうか。
 平成30年度からは、特定健診・特定保健指導の成果による後期高齢者支援金への加算・減算が強化されることになる。財政が逼迫して保健事業を縮小せざるをえない健保組合が、後期高齢者支援金に加算されることになり、ますます財政状況が悪化していき、保健事業どころか組合の維持すら困難になるのではないかと危惧(きぐ)される。
 さらに、厚労省の方針では、被保険者番号を世帯単位から個人単位に変更し、早ければ平成31年半ばから平成32年7月末にかけて、新たな被保険者証を配布する予定としている。同時にオンライン資格確認の導入を予定している。新たな被保険者証の配布と、オンライン資格確認に伴い発生する費用負担が、健保組合に課せられるのではないかと懸念している。
 医療費適正化のために必要な制度改正が、健保組合の費用負担の増加につながっていくのでは本末転倒である。
 現在の医療保険制度を支える中心となっているのは、健保組合をはじめとした保険者である。すべての健保組合が健全な財政状況を保ち、保険者機能を十分に発揮し続けられるようにすることが、医療保険制度を持続発展するためにも必要である。
 健保組合は高齢者医療への拠出金の増加により、すでに財政困窮の状況にある。厚労省には医療費適正化のための制度改正が、健保組合に今以上の費用負担を強いることなく進められていくことを求めてやまない。
  (S・K)