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組織における発達障がい者への理解と対応
〜障がい者差別解消法を踏まえて〜 |
12月5日、大阪商工会議所で心の健康講座を開催。大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 教授 片山 泰一氏が「組織における発達障がい者への理解と対応〜障がい者差別解消法を踏まえて〜」をテーマに講演されました。参加数は、45組合・64人。(以下に講演要旨) |
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片山 泰一 氏 |
近年、「発達障がい」に関する様々な問題が社会で取り上げられるようになってきた。社会啓発が進み、公的機関を中心に、一定の理解が進んできている。しかし、未だに「知的障がいと同義」や「自閉症=引きこもり」と勘違いしている企業経営者がいるなど、「発達障がい」に関する正しい知識・理解は十分に進んでいるとはいえない。その原因の一つに発達障がいの理解のためには、医学的理解と社会的理解の両方が必要であるからと考えられる。
発達障がいは、医学的には、胎児期もしくは生後早期の神経発達の偏り(非定型的な神経発達)と考えられており、持って生まれた脳の特性であるといえる。DSM―5では、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)などに分類され、知的発達の遅れのあるケースからIQ130を超えるような高機能のケースまで、また、てんかん様発作やパニックを起こすような医療的関与が必要なケースから、身近な人々の関わり方で対応可能なケースまで様々であり、幅広い概念・総称である。一方、社会的理解が求められる(社会問題となっている)のは、このなかの知的障がいを伴わない、むしろ知的に高い「少し変わった人」のなかに発達障がい児者が多く含まれ、その数が年々増加しているといわれている点である。教育現場では、平成24年度文部科学省の全国調査で知的に遅れの無い通常学級に在籍する小・中学校の児童生徒の内、発達障がい疑いの割合が6.5%と報告され、社会に衝撃を与えた。発達障がい児者が増えているといわれる理由については、生物学的に増加しているという説、社会環境の変化、社会啓発の促進など、複数の要因が挙げられているが、いずれも単独で説明できるものはなく、これら要因が複雑に絡み合って起きていると考えられている。
発達障がいは生まれつきの特性によることから、「発達障がい児者の見たり感じたりしている世界は、定型発達児者の見たり感じたりしている世界と異なっている(違っている)こと」を自他ともに理解していないと、その違いの程度や種類によって様々な場面で衝突や困り感が生じ、不適切な関わりは、二次、三次障がいに発展する。そのため、生後できるだけ早い時期からその特性に気づき、早期に本人と家族・周囲にその特性に応じた関わりを持ってもらうことが最も有効であることが、欧米等の研究から明らかになってきた。
このようななか、昨年4月から「障がい者差別解消法」が施行された。この法律は、「障がい」をその人の持つ「機能障がい」として捉えるのではなく、「機能障がい」のことを考えずに作られた社会の障壁のこと(ハードル)を「障がい」とするという「障がい者権利条約」に基づく「障がいの社会モデル」という考え方を踏まえて作られた法律である。すなわち、「発達障がい」という医学的診断を受けた「人物」に配慮するのではなく、その診断に至った「他者との違い」に配慮することが求められる。そのため発達障がいのように外から見えない障がいでは、様々なアセスメントや「かおTV」などの機器による客観的な「共通の物差し」を挟むことで、お互い了解可能(合意)することが重要であり、「共通の物差し」に沿って「合理的配慮」を行うことが多くの職場で求められる。
発達障がい児者が暮らしやすい社会は全ての人々が暮らしやすい社会であり、科学的根拠を利用した社会、企業のシステム作りが進み、「みんな違ってみんないい」社会が実現することを願って止まない。 |
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