広報誌「かけはし」

 
■2017年10月 No.553
食からのメタボ対策と そのメカニズム

 8月10日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻 食品分子機能学分野 教授 河田 照雄氏が「食からのメタボ対策とそのメカニズム」をテーマに講演されました。参加数は、48組合・62人。(以下に講演要旨)

 
 
河田 照雄 氏

メタボリックシンドローム(メタボ)と肥満症
 メタボは、内情脂肪の蓄積と、それを基盤にしたインスリン抵抗性および糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧を複数合併するマルチプルリスクファクター症候群で、動脈硬化になりやすい病態と定義される。すなわち、動脈硬化発症のリスクの高い対象者(ハイリスク者)を効率よく抽出し、実効性のある保健指導(生活習慣病改善支援)を行うなどの対策が重要である。しかしながら、平成27年度で特定健診の実施率は約50%、受診者の16%ほどが特定保健指導の対象となっているが、実施率は17%とかなり低いのが現状である。
 さらに、日本肥満学会が提唱している「肥満症」が疾患概念として重要な位置づけとなってきている。肥満学会が平成12年に作成、23年に改定した肥満症の概念は「医学的に減量を必要とする病態」で、診断基準は、BMI(体格指数)25以上の人のうち、(1)耐糖能障害や脂質異常症、高血圧など11種類の合併症のなかで1つでも該当する人(2)合併症はないものの、内臓脂肪面積が100平方センチ以上、である。メタボの基準と重なる部分が少なくないが、肥満症を病気として定義づけ、「疾患概念」として治療対象としている点である。肥満を改善すれば、それだけで複数の合併症が一気に改善したり治ったりする、という特徴がある。

内臓脂肪・脂肪細胞とは
 メタボや肥満症において、その中心的な存在が「体脂肪」であり、とりわけ内臓脂肪の役割が大きい。内臓脂肪の正確な定義は、腸間膜脂肪、大網脂肪など門脈系に存在する脂肪組織で、皮下脂肪とは異なり、直接肝臓に流入する脂肪組織である。したがって、肝臓などの臓器に含まれる脂肪や腹腔内の脂肪組織は、内臓脂肪に含まれない。また、脂肪組織を構成する細胞には、主に2種類あることは従来から知られている。すなわち、余剰のエネルギーを脂肪として貯蔵し、必要なときに分解して全身へ供給する白色脂肪細胞と、細胞内の脂肪を使用して熱に変換する能力を持つ褐色脂肪細胞である。後者は新生児の体温維持のためのみに役割を果たすと考えられていたが、近年、成人にも白色脂肪細胞から変換して熱産生能力を発揮する褐色様脂肪細胞(ベージュ細胞)が存在することが明らかとなった。成人でのベージュ細胞の減少が「中年太り」に主要因であることも指摘されている。したがって、予防医学や治療においても成人におけるベージュ細胞の減少防止や活性化が課題となっている。

食とベージュ細胞
 なぜ、成人で褐色脂肪細胞やベージュ細胞が減少するのかは、よく分かっていなかったが、筆者らは肥満状態の白色脂肪細胞で生じる炎症反応がベージュ細胞の発生や機能低下を起こしていることを突き止めた。事実、脂肪組織の炎症を起こす細胞(マクロファージ)を薬剤で除去すると、ベージュ細胞が回復し、体温の維持に寄与することがマウスの実験で分かった。また、トウガラシの辛味成分や魚油(EPA、DHA)などの交感神経を穏やかに刺激する食品成分も、褐色脂肪やベージュ細胞の低下防止や活性化に役立つ。そのような食品成分を日常の食生活に適宜取り入れることにより、健康の維持に役立てることが大切であろう。

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