広報誌「かけはし」

■2017年10月 No.553


嗜癖(しへき)から依存へ
〜正しい理解とその対応〜

 9月6日、新梅田研修センターで心の健康講座を開催。神戸大学大学院医学研究科 精神医学分野 准教授 菱本 明豊氏が「嗜癖から依存へ〜正しい理解とその対応〜」をテーマに講演されました。参加数は、41組合・46人。(以下に講演要旨)
 

 

菱本 明豊 氏
 嗜癖や依存の問題は、アルコール・薬物依存といった物質依存から、ギャンブル・買い物依存といった過程依存の問題、ドメスティックバイオレンスにおける加害者−被加害者関係などの関係依存に至るまで、さまざまな病態が混在しており、一括りにして捉えることが難しい。
 物質依存は、個人・社会における問題が比較的明らかで、治療対象として捉えやすいが、昨今マスコミでも取り上げられることが多いギャンブル依存でさえ、それを疾患としてどう捉えるか、誰がどのように扱うべきか、というのは日本においては十分議論されていないし、専門的に扱う精神科医やカウンセラーも少ないのが現状である。
 しかしながら、依存(嗜癖)の病理はすべての型の依存に共通しており、@行動のコントロール障害、A反復性(強迫的欲求)、B耐性(快の低下)の3つの特徴が中核症状である。また、そのすべてに脳内報酬系(ドパミン神経伝達)が関わっている。
 本講演では、嗜癖と依存について概略を述べ、現時点で最も治療が確立されているアルコール依存症について、具体的なアプローチ法と治療法、生物学的機序などを解説する。
 アルコール依存症は、2013年の厚生労働省研究班の樋口らの報告によれば、概算で109万人いるとされ、1日平均アルコールを60g以上摂取する多量飲酒者の数は、979万人に達するとされる。多量飲酒者は、おそらく精神科で治療対象となるアルコール依存症には罹患していなくても、アルコール関連臓器障害(肝臓、膵臓関連障害、心臓血管系障害、食道・大腸がん等)の発生とは、大きく関連していることが推量される。そのため、一般身体科医においても、なるべく早期に多量飲酒者のスクリーニングを行い、アルコール依存症と診断できれば専門医へ紹介する。予備軍であれば、減酒療法などの介入を行うことが望ましい。
 アルコール依存症の診断は、@飲酒への強い渇望、A飲酒コントロールの不能、Bアルコール中止時の離脱症状の存在、C耐性の存在、D飲酒のために通常の社会生活上の楽しみや趣味を無視する行為、E明らかな有害があっても飲酒を続ける、の6項目中3項目を満たせば診断でき、それほど難しいわけではない。
 残念なことは、医療者が薄々、「アルコール依存症かもしれない」と気づいているにも関わらず、診断を率先して行わないという医療者の否認が数多くみられることである。
 確かに、アルコール依存症の治療は長期間にわたり、自助グループやケースワークなど、ほかの医療資源等との連携も必要なので、専門機関でないとマネジメントが困難である。そうではあっても、まずは診断を行い、適切な専門機関へ紹介するという作業は必要であろう。
 本講演では、具体的な対処法についても解説する。

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