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痛みの分かち合い まず合意形成努力を 
― ドイツ旅行で考えたこと ― |
「これがヨーロッパなの?」
夏休みに訪問したドイツで、カナダやアメリカなどの移民国家と見まがうような多人種、多民族ぶりに驚いてしまった。ドイツの国勢調査によると、全人口の約2割が移民または移民にルーツをもつといい、ミュンヘンなど南部の大都市で特に顕著だった。
第二次世界大戦による人口減と戦後ベビーブーム、目覚しい経済成長と、ドイツは日本とよく似た歴史を歩んだ。低い出生率や長寿命など、似た人口構成の特徴があり、やや緩やかではあるが、年代別人口構成もベビーブームの出生をピークとした紡錘(ボウスイ)形だ。
大きく異なるのはドイツが移民の受け入れに寛容な政策をとってきたことで、2000年代初頭には移民定住のための法律も整備されている。背景として、戦中の迫害の歴史とともに、少子高齢化に伴う労働力不足を移民によって緩和する意図も指摘され、昨今の大量流入により、反発する右派層との間で政治争点化している。
歴史も地理条件も異なる両国を単純に比較し、ここで移民政策の是非を論じるつもりはない。ドイツの例を引いたのは、先進国が抱える少子高齢化の問題は、伝統的な社会の形を変えるぐらいの決意がないと、解決できないことを強調したいためだ。
日本はどうか。戦後ベビーブームに生まれた「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、国民医療費がピーク期を迎える25年度まであと8年。戦後70年以上も抱えてきた問題が顕在化しようとしているのに、政治の表舞台では、どちらかいえば脇役のように感じる。
健保連が先に公表した「2025年度に向けた国民医療費等の推計」によると、25年度の国民医療費は57兆8000億円で、うち65歳以上が60%を占める。15年度からの変化を見ると、前半の5年間は6兆円の増加だが、後半は9兆円。つまり25年度が近づくほど改革を加速していかなければならない。
現制度を維持した場合、現役世代で組織する健保組合が高齢者医療を支えるために収める拠出金は、25年度に4兆5400億円と4割増える。実質保険料率は健保平均9.1%から11.8%に上昇する見込みだ。
総報酬割が10年度から後期高齢者支援金に、17年度から介護納付金にそれぞれ導入され、保険者は国の要請を保険料率に“換算”し、加入者の理解促進に一定の役割を果たしてきた。しかし、今後の大きな社会構造の変化を考えると、どう対処していけばいいのか、医療保険の現場にいる保険者でさえ想像できない。
先のドイツは、公的保険者の疾病金庫と民間医療保険を併用し、個人が給付内容を選べる仕組みだ。かつて千を超えた金庫を10分の1まで集約し、病床数の調整や平均入院日数の短縮でも日本の先を行く。
医療保険の財源を見ると、ドイツは個人や雇用主が負担する保険料で大半を占め、その分、保険料率が高い。逆にイギリスやカナダは税収を主財源としている。保険料と税投入を調整して皆保険を維持してきた日本は折衷型といえ、両者の長所を取り入れながら独自の方策で問題を解決していくべきだろう。
少子高齢化の問題は、先の大戦による人口構成のゆがみと経済発展による社会の成熟化に源がある。今後さらに課題が肥大化していくため、対策の遅れは致命的だ。目先の行政批判の回避や政治の論理はまず横に置き、この国の将来の姿をつまびらかにすることで、国民が痛みを含む社会的な負担を公平に担っていくためのコンセンサスを形成することが最重要策のように思う。 |
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(K・F) |
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