広報誌「かけはし」

■2017年5月 No.548
時評

保険者機能を発揮できる環境づくりを

― 組合財政が逼迫“ない袖は振れぬ” ―


〈転ばぬ先の杖〉
 最新の高齢社会白書によると、日本の65歳以上の高齢者人口は2042年にピークを迎え、高齢化率は2060年に39.9%(2015年26.7%)となり、2.5人に1人が65歳以上となると予測されている。
 政府は「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの中で、健康寿命を2歳以上延伸することを目標に掲げ、現役時代からの取り組みも重要であり、必要な対応をとるとしている。
〈火の車〉
 現役世代の健康づくりの一翼を担う健保組合の保健事業には、高齢者医療費をはじめとした医療費の負担が重くのしかかっている。
 4月14日、健保連は平成29年度健保組合予算早期集計を発表した。それによると、全国の健保組合の保健事業費は総額3915億円、被保険者1人あたりは2万3822円。一方、支援金・納付金等と法定給付費を合わせた義務的経費は、総額7兆6515億円、1人あたり46万5597円となっている。
 5年前の保健事業費は総額3068億円、被保険者1人あたり1万9611円。義務的経費は総額6兆1332億円、1人あたり39万2055円だった。この間の伸び率は、いずれも20%前後を示している。
 しかし、増加額をみると、保健事業費総額847億円増、1人あたり4211円増であるのに対して、義務的経費は総額1兆5183億円増、1人あたり7万3542円増と桁違い。義務的経費の増加額だけで保健事業費総額をはるかに上回っている。
〈言うは易く行うは難し〉
 国は「データヘルス計画」「特定健診・特定保健指導」を保健事業の重要な柱として推進している。「データヘルス計画」は平成30年度から第2期を迎え、各健保組合は第1期の取り組みをベースに本格的な実施となる。
 PDCAのCとAに重きを置き、事業主とのコラボヘルス、情報共有によって効果的、効率的な保健事業の推進が求められる。
 しかし、事業主との連携ひとつをとっても多大な労力が必要であり、総合健保ではとくに顕著である。第1期での成果検証を十分にしたうえで第2期につなげていけるのか、いまだ試行錯誤の状態ではないか。
 「特定健診・特定保健指導」は、平成29年度の実績値が健保組合ごとに公表され、国が定めた目標の達成度によって後期高齢者支援金が加算・減算されることとなる。
 平成27年度の実績値と目標値の比較では、特定健診で単一・総合ともに15ポイント、保健指導では単一・総合で各々30、20ポイントと大きな開きがある。
〈青菜に塩〉
 財政的に負担がかかる「人間ドック」への費用補助があったり、保健指導に必要な専門職が健保組合または事業主にいたりする場合は、比較的高い実績を残せるが、財政や人材面の余裕がない健保組合では、一朝一夕には受診率等は向上しないのが現実だ。
 また、自助努力を続けていくことは当然だが、保健事業費を抑制せざるを得ない構造的な問題を抱える健保組合の現状では、組合間の格差が露呈されるだけで改善効果は限定されるのではないかと危惧する。
〈逃げるは恥だが役に立つ〉
 昨年の人気ドラマで知られたこのハンガリーのことわざには「自分の戦う場所を選べ」「自分の得意分野で勝負しろ」というような意味があるという。
 健保組合は加入者約3000万人の健康維持・予防に日々取り組んでいる。加入者一人ひとりと密接につながり、きめ細かい保健事業によって現役世代の健康を守っていかなければならない。
 国には、財政的に厳しい健保組合の実施率向上に向けた施策や、ビッグデータを活用したアドバイスなど、国にしかできない支援を望む。
  (K・K)