■2017年4月 No.547
「健康生活の支援」が保険者の本旨
― 10年目を迎えた特定健診・保健指導 ―
今年度から後期高齢者支援金の計算方法が全面総報酬割となった。厚労省によると、平成29年度の支援金は健保組合全体で対前年度比9.0%増の1兆8200億円にのぼる。伸び率は過去最高で、前期高齢者納付金を含めた29年度の拠出金総額は、3兆5100億円もの巨額に達する。
健保組合は拠出金の重圧にあえぎながら、保険料率を引き上げるなど工面して29年度予算編成を終え、新年度を迎えた。高齢化が進み、このままでは拠出金が増える一方。是非とも早急な高齢者医療費の負担構造改革が必要だ。
ところで、いまの高齢者医療制度は「高齢者の医療の確保に関する法律」により、20年度に施行された。特定健診・特定保健指導の仕組みも、この法律に規定されている。29年度で10年目を迎えたが、特定健診等の実施計画は5年ごとに見直される。30年度からが計画の第三期で、いま検討作業が進んでいる。
厚労省の「保険者による健診・保健指導に関する検討会」はこの1月、制度運用見直しについての議論をまとめた。検討会には健保連の代表も参画しているが、そこでは、これまでの事業実績をもとに、見直し案を提示した。
それによると、制度が国民に知られてきたことや、検査値の連続性を保つ必要があることから、腹囲基準(男性85センチ以上、女性90センチ以上)など基本的な枠組みは維持することとした。
その一方で、特定保健指導については柔軟な見直しを打ち出している。おもな点は、@現状6カ月後である実績評価を3カ月後に短縮A健診受診当日に保健指導の初回面接を実施B2年連続して積極的支援に該当していても、2年目にわずかでも改善された場合は動機づけ支援相当と位置づける―などだ。
いずれも受診者の利便性や、健診・保健指導の現場の声を反映させ、受診率・実施率の向上を図る改善策として示された。
また、積極的支援の実施基準を検証するためのモデル運用や、初回面接時の遠隔面接を導入しやすくする措置も提案されている。
受診率・実施率については、特定健診70%以上、保健指導45%以上という保険者全体の目標値は変えず、保険者種別ごとに目標値を設定して全体目標を達成する考えをとった。これにより、健保組合の健診受診率は単一90%、総合85%、保健指導実施率は単一55%、総合30%―以上と、相当高めの設定になる。
一方、これまで保険者の種別ごとの集計値で行われていた実施率の公表は、29年度分から全保険者の個別数値が対象になる。また、後期高齢者支援金の加算・減算の仕組みは、保険者の種別ごとに分離され、健保組合では加算の起点となる実施率と加算率を、ともに引き上げる方向だ。
政府資料では、実施率が低い保険者の底上げが目的という。しかし、そもそも実施率の目標と実績が大きく乖離している背景には、高齢者医療への巨額の負担により、個々の保険者で指導実施のための資金確保が困難かつマンパワーも不足している現状がある。
保健指導をしやすくするための見直し案が充分に機能せず、支援金の加算という「ムチ」の部分のみが先行するような結果になれば、悪循環に陥るだけだ。事業主とより強く連携するための制度や負担余力の乏しい保険者への配慮など、「側面支援」の方策も十分に練り上げたうえで実行に移すべきだろう。
厚労省は今回の検討会のまとめを踏まえ、関係法令等の見直しを行って第三期の特定健診・保健指導の実施に臨む方針だ。
受診率の向上は大事だが、健診はあくまで加入者に健康的な生活を送ってもらうためのツールの一つであって、保険者は加入者の支援をするのが本旨だろう。これを忘れず、すべての保険者が円滑に導入できる制度となることを期待したい。
(T・M)