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国民皆保険の堅持を

― 改革を停滞させるな ― |
この時評が皆さんの目に触れるのは、米国の新大統領就任式が行われているころでしょう。
米国大統領選挙は、トランプ氏の過激な発言もあって注目を浴びました。そして、まさか同氏が大統領に選ばれることはないだろうとみられていましたが、そのまさかが現実となりました。
民主党の候補であったヒラリー氏は、以前から医療保険改革に熱心に取り組んでいました。今回の選挙戦においても、現在のいわゆるオバマケアについて、さらに改革を進め、国民の1割を超える無保険者を減らすとの主張をしていました。
他方、トランプ氏は、オバマケアは即座に撤回すべきだと主張していました。当選後、同氏は、その一部について存続させると、主張を変更しているようですが、改革の動きは停滞しそうです。
ひるがえって、日本においては、社会保険方式での健康保険制度を採用し、この保険への加入を義務化することで、国民皆保険が成り立っています。
米国では、医療費が医療機関によって異なり、概して高額、医療保険の運営は主に民間会社であるなど、日本と事情が大きく異なります。
日米の比較は一概に論じられませんが、国民皆保険を達成している日本の方が米国よりも優れた制度といえます。
平成28年版厚生労働白書にも、次のような記述があります(『 』は、筆者)。
「社会保険制度は、『保険料を支払った人々が給付を受けられるという点で、自立・自助という近現代社会の基本原則の精神を生かす』と同時に、『強制加入の下で所得水準を勘案して負担しやすい保険料水準を工夫することで、社会連帯や共助の側面も併せ持っており』、『自立と連帯という理念に、より即した』仕組みである」
この「かけはし」でも、たびたび取り上げているように、高齢者への拠出金が健保組合の財政上、大きな負担となっています。平成27年度では、その拠出金が経常支出の42.8%を占めるに至っています。
社会連帯や共助の側面も大切だとは思います。しかし、保険料の4割以上が、保険料を支払った人以外への給付に充てられているのに、「保険」と呼ぶのは違和感があります。
また、そうした拠出金を含んだ組合財政をまかなうために、健保組合の保険料率は上昇を続けています。後期高齢者医療制度施行前の平成19年度の平均保険料率は7.308%でしたが、27年度は、9.035%となり、1人あたりの年間保険料は、30%近くも増加しています。
健保組合は、被保険者に負担増をお願いし、保険料率を上げ、自身の財政をなんとか維持しているのが実情です。
こんな状況で、「工夫された負担しやすい保険料水準」と自信を持って言えるでしょうか。いまのままでは、制度に対する信頼がゆらぎかねません。
昨年11月に開催された、健康保険組合全国大会においても、スローガンの一つとして「国民皆保険の堅持に向けた健康保険組合の維持・発展」を強く訴えています。
国民に根づいている皆保険が壊れるなんて、まさか起こらないと思っている人は多いでしょうが、まさかが現実となる実例は米国大統領選挙で経験したばかりです。
優れた制度を決して壊すことのないよう、健保組合の訴えを国は真剣に受け止め、改革を停滞させることなく、早期に実行することを切に願うものです。 |
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(A・K) |
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