広報誌「かけはし」

■2016年12月 No.543
時評

介護保険法の理念を曲げるな

― 納付金の総報酬割に断固反対する ―


 介護保険法は、国民の共同連帯の理念にもとづき、平成12年に施行された。保険者は市町村。被保険者は65歳以上(第1号被保険者)と、介護が切実な問題になる40〜64歳の年齢層(第2号被保険者)。第1号被保険者が「居宅」「地域密着型」「施設」3タイプのサービスを受けられる。
 制度創設前、高齢者は身近な人以外から介護を受けるのをきらう傾向が強かった。だが、公的介護保険ができたことで、気がねなく受けられるようになった。
 また、医療制度への波及効果も大きかった。介護と医療の仕分けにより、社会的入院が減って在院日数が短縮化された。その結果、医療費の適正化にも役立っている。
 反面、制度への理解が進んでサービスを利用する高齢者も多くなり、初年度3.6兆円だった介護保険の総費用は、現在では10.4兆円に増加した。高齢者の増加で、今後も増大が確実だ。給付のための費用は、原則1割の利用者負担を除き、概ね保険料と公費(国、都道府県、市町村)で折半負担している。
 いま、介護保険制度見直しの議論が、社会保障審議会介護保険部会で大詰めだ。焦点は、介護納付金の算定方法を、人頭割から総報酬割に変更する問題。
 健保連は断固反対している。その理由は、@介護保険制度創設時の理念を逸脱するA国庫補助削減の肩代わりにほかならないB健保組合全体で急激な負担増となるC受益をともなわない負担増には事業主・被保険者の理解が得られない―からだ。
 現行制度では、40〜64歳の世代が給付を受けられるのは一部のケースに限られ、社会的扶養や世代間連帯の観点から、保険料を負担する仕組みになっている。この考えをもとに、介護納付金は各医療保険者の40〜64歳の加入者数に応じて負担する「人頭割」を制度共通のルールとしている。
 ところが、この人頭割を被用者保険に限って「総報酬割」に変更するというのだ。この変更は、従来の理念を度外視し、共通ルールに反するものだ。
 総報酬割による介護納付金の負担の変化をみると、健保組合全体で980億円増、共済組合890億円増、協会けんぽ420億円減、協会けんぽの介護納付金にかかる国庫補助1450億円減となっている。国庫補助減らしと、その負担を肩代わりさせようとする意図は明らかだ。
 一方、医療保険では平成29年度から、後期高齢者支援金が全面総報酬割に移行するため、健保組合全体で2100億円の負担増となる。そのうえ介護納付金も総報酬割になれば、負担の上乗せとなる。現役世代の医療・介護費用の負担状況を勘案し、高齢者医療・介護制度全体の改革が必要だろう。
 現状でさえ負担が重い現役世代にとって、介護納付金の総報酬割導入は、受益をともなわずに負担だけが増える。これでは事業主や被保険者の理解を得られない。被用者保険だけでなく、国保も含めて現役世代の負担のあり方を検討すべきだ。
 冒頭に記したように、介護保険の保険者は市町村だ。介護保険と医療保険は、制度が違うし保険者も違う。介護保険法第6条に明記されているとおり、健保組合は介護保険制度の保険者ではなく「協力者」なのだ。財政対策を優先するあまり、法の理念を曲げてはならない。
  (T・M)