広報誌「かけはし」

 
■2016年11月 No.542
生活習慣病予防に役立つデータの眺め方
〜生活習慣病は予測できるか?〜

 9月27日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪がん循環器病予防センター 予防推進部長兼健康開発部長 岡田 武夫氏が「生活習慣病予防に役立つデータの眺め方〜生活習慣病は予測できるか〜」をテーマに講演されました。参加数は、76組合・102人(以下に講演要旨)。

 
 
岡田 武夫 氏
全国的な統計でみると
 平成27年の人口動態統計をみると、日本人の死因は、がん(悪性新生物)、脳血管疾患(脳卒中)、心疾患(高血圧性以外)、肺炎で約3分の2を占める。心疾患の内訳をみると「心不全」が36.6%を占める。心不全の多くは心臓病が原因であろうが、他の疾患がここに紛れ込んでいる可能性は十分にある。
 年齢別の死亡数、死因をみると、男女ともに60歳未満で亡くなられる方は少数である。若くして亡くなる女性の死因は悪性新生物が多く、男性の死因はそれに心疾患が加わる。
 平成27年簡易生命表をみると、死亡確率が最も高いのは男女ともに悪性新生物である。特定死因を除去したときの平均余命の延びは、悪性新生物が最も大きい。悪性新生物が比較的若い層の死因となることが多い。肺炎による死者は高齢者が多い。心疾患、脳血管疾患は比較的若い層から高齢になるまで死因として重要、と考えられる。また、年齢により死亡数が大きく異なることに注意したい。
 さて、平成26年患者調査によると、実際に通院している患者が最も多いのは高血圧で約680万人、悪性新生物が約300万人、脳血管疾患が約250万人、心疾患が約190万人となる。ちなみに、急性上気道感染症(すなわち風邪)の患者は、脳血管疾患よりわずかに少ない。

われわれの経験から
 大阪府立健康科学センター時代のデータでみると、年齢を問わず、体重が重いほど、健診時の血圧が高いほど高血圧になりやすく、一方で、肥満していても体重が5%以上減った群では高血圧になる割合が小さくなっていた。
 同時期のデータでみると、脳血管疾患は肥満者で発症が多く、虚血性心疾患は若年と高齢の男性で肥満者での発症が多くなっていた。高血圧、糖尿病であるものは、虚血性心疾患、脳卒中を発症しやすいが、脂質異常症は、高齢者で脳卒中に関係していなかった。飲酒は虚血性心疾患の発症と関係せず、脳血管疾患と関係していた。喫煙は、虚血性心疾患と関係していた。
 当センターで運用している循環器疾患の発症予測ツールでは、飲酒を止めると、循環器疾患の発症率が上昇するケースがあるが、これは前記のような状況を反映しているものと考えられる。

肥満と死亡、その他
 BMIが21〜27の範囲が最も死亡率が低く、年齢とともに総死亡率が最低となるBMI値が上昇していくといわれている。若くして亡くなられる方の死因に肥満がリスクとなる疾患が多いので、年齢が高くなるほど相対的に肥満の影響が少なくなるものと考えられる。
 昭和30年代以降、動物性脂肪の摂取の増加により血清コレステロール値は上昇し、脳出血が減少した。コレステロール値の上昇は虚血性心疾患を増加させるが、脳血管疾患減少の効果の方が大きく、日本人では飽和脂肪酸の摂取量が多いほうが循環器疾患全体の発生率が低くなる傾向がある。
 データを眺めて予測を立てるとき、あまりに複雑な論理、筋道は考えず(オッカムの剃刀)、論理的にあり得ないことは考えず、「ない」という事実にも留意すべきである。酒は百薬の長というが、その害については徒然草にも記述がある。古人の知恵に学ぶこともまだまだ多いようである。

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