■2016年8月 No.539
消費税引き上げ再延期が落とす影
― 平成29年度政府予算編成を注視 ―
参議院選挙は自民・公明両与党の圧勝で終わった。期間中、マスコミ各社の国民への政策アンケートでは、社会保障改革が経済対策とともに関心度の上位を占めた。しかし、各党ともに具体策を明示しなかったせいか論戦まで至らず、選挙戦の争点にならなかった。
これより先、伊勢志摩サミット後に安倍首相は、平成29年4月からの消費税率10%への引き上げを、2年半再延期する方針を明らかにした。
消費税の段階的引き上げを決めた24年、税率アップにともなう税収増分すべてを高齢化による社会保障費の増加分にあてることにしていた。
しかし、税収増のもくろみを自らの増税先送りで断ったため、政府による税収不足分補てんのための財源探しと大幅な歳出カットは避けられない情勢となった。
さしあたり、国の29年度予算編成が注目される。1年前、政府は「骨太の方針2015」で、高齢化による国の社会保障費の支出増加を、30年度まで年間5000億円ほどに抑えることとした。歳出に箍(たが)をかけたが、今度は歳入の見込みが立たなくなった。
8月末、厚労省は29年度予算概算要求を財務省に提出する。その後、予算編成作業は、年末の29年度政府予算案決定まで続く。「社会保障・税一体改革」で高齢化を重視した年金、医療、介護、少子化対策。どれも歳出削減は難しいだろう。医療に関して、決め手は医療費適正化に向けた大胆な切り込みではないだろうか。
健保組合の財政は、いぜん悪化の一途をたどっている。大阪府下166組合の27年度決算見込みをみると、経常収支は148億円の黒字となったが、これは20%以上の組合が保険料率を引き上げて対応した結果だ。
財政危機の主因は高齢者医療への拠出金。保険料収入に対する割合は41.39%になっている。拠出金が70%を超える組合もある。
また、半数近い75組合は赤字。別途積立金がなくなり、法定準備金さえ底をつく組合が多い。平均保険料率は9.139%で、大阪の協会けんぽの27年度賦課保険料率(10.04%)に近づいた。
このような状況下でも、健保組合は加入者のために、費用をともなう特定健診・保健指導、データヘルス、マイナンバー制度導入などに取り組まなければならない。
昨年5月の法改正により、29年度からの後期高齢者支援金の計算方法が全面総報酬割に変更され、健保組合全体での支援金負担額が増加する。法改正では同時に、法律の定めによる拠出金(後期高齢者支援金+前期高齢者納付金)負担の軽減策導入(約100億円)と、高齢者医療運営円滑化等補助金による前期高齢者納付金負担の軽減拡充策(約600億円)が決まった。
このうち、円滑化等補助金は単年度の予算措置であるために、不確定要素が残る。改正法の趣旨に沿って確実に予算計上されるよう望む。まず、今月末に迫った29年度政府予算概算要求を注視したい。さらには年末の政府予算案決定まで目を離せない。
(T・M)