広報誌「かけはし」

■2016年7月 No.538
時評

薬剤・医療技術の進歩と皆保険制度


 最近、新聞・雑誌等で「高額新薬」に関する記事をよく目にする。きっかけは、昨年、新たに保険適用になったC型慢性肝炎の治療薬の登場だ。臨床試験の結果では12週間服用すれば、ほぼ全員が完治するという。1錠あたり約6〜8万円。12週間で約500〜700万円かかる高い薬である。
 一方で、治療効果の高さから患者の便益はもちろん、健保にとっても長いスパンでみれば、将来の医療費の抑制につながることが期待できるとも考えられる。
 では、高額薬という点で、とくに注目を集めているがん治療薬はどうだろう。当初は、患者の少ない皮膚がんの治療薬として承認されたが、昨年には肺がんの一部にも保険適用の範囲が広げられた。
 費用は、患者1人が1年間使うと約3500万円。肺がん患者数約13万人のうち、仮に5万人が使えば1兆7500億円で、医療機関で処方される薬剤費の年間総額8.5兆円の2割に相当することになる。
 臨床試験で効果がみられたのは2割前後ともいわれているが、他に選択肢がないのであれば、患者はこの薬の投与を望むことになる。肺がん以外のがんについても、適用範囲を広げる臨床試験が進められているという。
 この4月から、中医協で薬の「費用対効果」を検証する取り組みがスタートした。上記薬品を含め医薬品7品目と、医療機器5品目が選定された。保険財政が逼迫するなかで、高額な新薬をどこまで保険適用するか、だれが負担するか等、非常にナーバスな問題が山積みである。医療保険制度を維持するためにも、2年後の診療報酬改定までしっかり議論していく必要がある。
 P・ドラッカーは、「非営利組織には成果を重視しない傾向があるが、成果は企業よりも非営利組織において大きな意味をもつ」と言っている。
 費用対効果を検証すべきは「医薬品」と「医療機器」だけではない。健保組合が今後核として取り組むべきデータヘルス事業もそうである。
 従来からの適用・給付を中心とした健保事業を大切にしつつも、今後は、データヘルス事業に力点をシフトし、データヘルス事業が社会に与えるアウトカム、効果をしっかりと評価・検証し、その結果を加入者・関係者にも正しく説明し理解を得ることが必要だろう。
 今年の某プロ野球チームのスローガンは「超変革」である。従来のやり方にとらわれず、チームを活性化させ、成果をあげようとしている。
 高齢者医療費への過重な拠出金は、健保組合の財政を圧迫し、保険者機能を発揮する力をまさに奪い取ろうとしている。変革せずに健保組合が保険者機能を失えば、国民皆保険の崩壊を招くことになる。この現状を国民に強く訴え、早期に改革を実現しなければならない。
 一方で、健保組合も、この激しい環境変化のなかで、「自らも変わり続けることこそが、これからも変わらず存続していくことができる唯一の選択肢」という気概を持つことも必要だろう。
  (K・M)