広報誌「かけはし」

■2016年4月 No.535


 健保連大阪連合会は3月28日、大阪市北区のホテルモントレ大阪で、医療費適正化に向けて「あしたの健保組合を考える大会 PART2」を開催した。この日は大阪府以外の近畿地区各府県からの参加もあり、約260人の健保組合関係者が会場を埋めた。大会では医療費適正化をテーマに、梅村聡氏(医師、前参議院議員)による講演と、大阪府選出国会議員や健保組合責任者などによるパネルディスカッションが行われ、適正化への具体策を模索した。
 皆保険制度維持のため、早急な医療保険制度改革、とりわけ高齢者医療の給付と負担改革・医療費の適正化施策の強化を、国に求める必要がある。大阪連合会は健保連本部と連動して、健保組合の意思結集を図り、要求実現活動を積極的に展開することとして、この日の大会を開いた。
 「あしたの健保組合を考える大会」は、昨年も同時期に開催。今年の大会は「PART2」とした。大会には、大阪府内、および近畿地区各府県の健保組合関係者約260人が参加した。(文責本誌)
大会には約260人が参加
梅村聡氏が基調講演
 大会の前半では、梅村聡氏(医師、前参議院議員)が「医療費適正化への提言」と題して基調講演を行った。大阪大学医学部出身で医師の梅村氏は、「国民皆保険体制をとっている国はヨーロッパを中心に数多くあるが、日本の制度は、国民と医療提供側にとって最も使い勝手がいい」ときり出した。
 しかし、日本の公的医療保険制度の最大の弱点は「財源問題だ」とし、「使い勝手がいいあまり『放漫経営』に陥る可能性がある」と警告。「制度を守るには医療費適正化が不可避」と強調した。そして医療費適正化の課題として、次の7つの論点に整理した。
 ▽政府の医療保険支出予算の決定方法(現行診療報酬改定率の決定過程の是非) ▽都道府県による地域医療計画づくり(策定だけで適正病床数は保てるか) ▽地域包括ケアシステム(在宅へのスムーズな移行のために政策誘導開始)
 ▽かかりつけ医制度(自由開業医制・フリーアクセスとの関係も考慮) ▽ジェネリック医薬品のさらなる使用促進 ▽医療機関の領収書発行の普及促進(国民が診療メニューの料金体系を事前に知る方法も検討すべき) 
 ▽医療情報の管理・アクセスなどの簡便化方法の検討―。このほか、終末医療問題、療養費問題も課題として掲げた。
国会議員など交えて討議
 大会の後半では、パネルディスカッションが行われた。
 パネリストは次の各氏。
 国会議員:長尾敬氏(衆議院議員・自由民主党)、同:松浪健太氏(衆議院議員・おおさか維新の会)。健保組合の立場で、大阪府電設工業健保・喜多眞生常務理事、パナソニック健保健康開発センター・阪本善邦所長。それに、前半の講演者・梅村氏が加わった。コーディネーターは日本リハビリテーション振興会・宮武剛理事長が務めた。
◇               ◇
 パネルディスカッションでは、まず宮武氏が、梅村氏の基調講演での論点整理を受けて、「医療費を適正化して、膨張をどうコントロールしていくかが当面する課題」と、パネリストそれぞれに適正化についての考えを質した。
 長尾氏は、皆保険制度を守るには、医療保険制度に対する国民の理解を深めるため、国主導で周知徹底を図ること。医療側、患者側双方の、単に「健康保険は使い勝手がいい、使ったほうが得だ」という意識を変えていくこと、とした。
 松浪氏は、適正化されていないのは、持続可能性がある状態ではないということ。大きなワク組みをつくり、いまのうちに医療のコア部分とそうでない部分を線引きしておかないと、いざというときに耐えられない、と語った。
 喜多氏は、高齢者医療への健保組合の拠出金負担が、現役世代が納得できる水準を超えている。そのなかで健保組合では、医療費適正化のための諸対策を行っているが、財政難のために手が回らない。医療費適正化のためには、まず高齢者医療制度の負担構造の改革が必要、と訴えた。
 阪本氏は、職場と家庭の健康づくりのために「健康パナソニック21」を実施、健診受診の向上などを目ざしている。また、医療費適正化のために、レセプト、健診データを活用してデータヘルスを推進していると、自組合での取り組みを披れきした。
大胆な改革が必要
 各氏の発言が一巡した後、宮武氏は、「各健保組合は地道にさまざまな健康づくり対策を施し、医療費効率化を図っている。それでも年間3兆3000億円もの拠出金を高齢者医療に拠出しているのが実態だ。
 さらに後期高齢者支援金には全面総報酬割が待ち受けている。介護保険の納付金にも総報酬割導入の議論がある。このあたりの政策展開はどうか」とマイクを向けた。
 梅村氏は、後期高齢者医療制度発足(平成20年)当時、75歳以上の診療報酬体系を別につくることと、現役世代から一定の支援を得ることはセットで、身を切る改革だったはず。大胆な改革がないまま、医療費の増大部分を負担させられているのが問題、と指摘した。
 長尾氏は、拠出金がこんなにあるということを、すべての国民が知っているか疑問。ほんとうは国が国民に告知すべきところ、と強調した。
 松浪氏は、総報酬割がこんなに進むとは当時だれも思わなかった。「高齢者医療費に公費を」というが、公費の原資は税金。医療費はみんなが負担する。現役世代、高齢者、政府の三方が痛みを分け合うシステムづくりが必要、とした。
包括払いの進展も
 高齢者医療費の効率化について喜多氏は、大阪府の医療と医療費、柔道整復施術と療養費の実態を示しながら、高齢者医療の診療報酬を別体系にすべき、と展開した。
 宮武氏は、日本の医療機関の受診率(年間受診件数)は諸外国と比べて圧倒的に高い。それを受診1回ごとに出来高払いで支払っている、と説明した。
 梅村氏は、国全体の問題として、仮に診療報酬点数単価を下げても診療件数を増やせばいいと考える医療機関は生き残ってしまう。医師が自分たちで律するすべがない限り次善の策として、ある程度包括払いをとらざるをえないのではないか、と示唆した。
 さらに、患者のモラルの問題として、生活保護受給者の医療費のほうが、一般より検査回数も多く請求金額も高い、と統計データにもとづき指摘した。
 長尾氏は、現行の医療費支払方式は患者にとって使い勝手がいいから、逆にモラルハザードを生んでいるのではないか、と指摘した。
 また、宮武氏は、日本と同様に皆保険体制かつフリーアクセスのフランスでは、はしご受診などの“ドクター・ショッピング”がひどいため、いまでは医療機関の種類によって患者一部負担に極端な差を設けている、という例を紹介した。
 このような、勝手にムダな医療費を使わない仕組みを設けることに対して、長尾氏は、そのためには国民(=患者)の意識改革が相当必要だ、と述べた。
 かかりつけ医を介さなければ自己負担を多くする仕組みについて、松浪氏は、道州制の考えの立場から発言。地域によってある程度の違いをつけるのは当然、とした。
パネルディスカッション
 大会当日、会場には大阪連合会が制作した3枚の巨大パネルが展示された。パネルには、「せっかく長生きするなら健康じゃなきゃ…」「知識を身につけてかしこい患者になろう」「『健保組合』は皆さんの健康と安心をサポートします」とのキャッチコピーが掲げられた。
 パネルは、大阪府の健康度の実態と健康指標、医療費節減のための正しい受診の知識、健保組合の諸活動―をアピールした内容になっている。(一部をこちらに掲載。また、3点とも大阪連合会ホームページに掲載。転載自由)
 それに加えて、健保連が推進する「あしたの健保プロジェクト」の共通キャラクター「天才バカボン」のキャッチコピーを使ったパネル4枚も、同時に展示された。
◇               ◇
 大阪連合会では、5月22日(日)に健保連本部と共同主催で、一般市民を対象に公開行事の特別講演とパネルディスカッションを開催する。なお、この催しの広告が、4月15日の読売新聞と朝日新聞の朝刊・大阪版に掲載された。また、JR大阪環状線の車内にも開催前の2週間掲示される。
 開催要領は次のとおり。
開催趣旨  医療保険制度改革、とくに高齢者医療の改革を国に強く求める必要がある。あわせて健保組合の存在意義と健康の大切さを広く世論に訴える。
日   時 平成28年5月22日(日) 14時〜16時15分
場   所 大阪商工会議所7階 国際会議ホール
(大阪市中央区本町橋2―8)
内   容 ・特別基調講演
    「夢が 生きる力となる」   講師:向井亜紀氏(タレント)
  ・パネルディスカッション
    「健康で元気な社会のために」
     コーディネーター
       梅村 聡氏(医師 前参議院議員)
     パネリスト
       向井亜紀氏(タレント)
       太田房江氏(参議院議員 自由民主党)
       尾立源幸氏(参議院議員 民進党)
対   象 一般市民 700人程度
その他のイベント
チラシ配布、パネル展示(内容は、一般市民向けに、健康寿命、医療費のムダ、健保組合の現状など)
健康相談コーナー設置(血管年齢・骨密度測定、保健師による指導を実施)