■2016年3月 No.534
平成28年4月からの診療報酬改定が決まった。中医協(中央社会保険医療協議会)が2月10日、塩崎恭久厚生労働大臣へ答申した。本格的な高齢化を視野に、医療機能の分化・連携の推進や、薬価の適正化などを打ち出している。また、答申には、懸案事項について18項目の附帯意見がつけられた。これら課題は、中医協で今後引き続き検討される。
平成28年度診療報酬改定については昨年12月24日、政府が予算編成の最終段階で、全体の改定率をマイナス0.84%と決定していた。この内訳は、診療報酬本体がプラス0.49%(医科=プラス0.56%、歯科=プラス0.61%、調剤=プラス0.17%)、薬価=マイナス1.22%、材料=マイナス0.11%。
中医協ではその後、改定率を見据えて、医療行為など個別項目ごとの診療報酬点数に反映させるため詰めの審議を行い、今回の答申に至った。答申には、今回の改定に反映できなかった事項や、引き続き検討が必要な課題などについて、18項目にわたる附帯意見が付されている。
中医協(厚相の諮問機関、会長=田辺国昭東大大学院教授)は、支払側が健保連代表委員など7人、診療側が日本医師会代表委員など7人、公益側が6人の合計20人で構成されている。
28年度診療報酬改定の答申書と附帯意見の内容、改定のポイント(健保連本部まとめ)は次のとおり。
◇ ◇
答申書
(平成28年度診療報酬改定について)
(平成28年2月10日 塩崎恭久厚生労働大臣から田辺国昭中央社会保険医療協議会会長あて)
平成28年1月13日付け厚生労働省発保0113第1号をもって諮問のあった件について、別紙1から別紙8までの改正案を答申する。
なお、答申に当たっての本協議会の意見は、別添のとおりである。
注:
答申書の「別紙1から別紙8まで」については、「
平成28年度診療報酬改定の概要(主なポイント)
」を参照されたい。
◇ ◇
(別添)
答申附帯意見
1.
急性期、回復期、慢性期等の入院医療の機能分化・連携の推進等について、次に掲げる事項等の影響を調査・検証し、引き続き検討すること。
・
一般病棟入院基本料・特定集中治療室管理料における「重症度、医療・看護必要度」等の施設基準の見直しの影響(一般病棟入院基本料の施設基準の見直しが平均在院日数に与える影響を含む)
・
地域包括ケア病棟入院料の包括範囲の見直しの影響
・
療養病棟入院基本料等の慢性期入院医療における評価の見直しの影響
・
夜間の看護要員配置における要件等の見直しの影響
あわせて、短期滞在手術基本料及び総合入院体制加算の評価の在り方、救急患者の状態を踏まえた救急医療管理加算等の評価の在り方、退院支援における医療機関の連携や在宅復帰率の評価の在り方、療養病棟を始め各病棟における患者像を踏まえた適切な評価の在り方、医療従事者の負担軽減にも資するチーム医療の推進等について、引き続き検討すること。
2.
DPCにおける調整係数の機能評価係数Uの置き換えに向けた適切な措置について検討するとともに、医療機関群、機能評価係数Uの見直し等について引き続き調査・検証し、その在り方について引き続き検討すること。
3.
かかりつけ医・かかりつけ歯科医に関する評価等の影響を調査・検証し、外来医療・歯科医療の適切な評価の在り方について引き続き検討すること。
4.
紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入の影響を調査・検証し、外来医療の機能分化・連携の推進について引き続き検討すること。
5.
質が高く効率的な在宅医療の推進について、重症度や居住形態に応じた評価の影響を調査・検証するとともに、在宅専門の医療機関を含めた医療機関の特性に応じた評価の在り方、患者の特性に応じた訪問看護の在り方等について引き続き検討する。
6.
回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカム評価の導入、維持期リハビリテーションの介護保険への移行状況、廃用症候群リハビリテーションの実施状況等について調査・検証し、それらの在り方について引き続き検討すること。
7.
精神医療について、デイケア・訪問看護や福祉サービス等の利用による地域移行・地域生活支援の推進、入院患者の状態に応じた評価の在り方、適切な向精神薬の使用の推進の在り方について引き続き検討すること。
8.
湿布薬の処方に係る新たなルールの導入の影響も含め、残薬、重複・多剤投薬の実態を調査・検証し、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師・薬局が連携して薬剤の適正使用を推進する方策について引き続き検討すること。あわせて、過去の取組の状況も踏まえつつ、医薬品の適正な給付の在り方について引き続き検討すること。
9.
医薬品・医療機器の評価の在り方に費用対効果の観点を試行的に導入することを踏まえ、本格的な導入について引き続き検討すること。
あわせて、著しく高額な医療機器を用いる医療技術の評価に際して費用対効果の観点を導入する場合の考え方について検討すること。
10.
患者本位の医薬分業の実現のための取組の観点から、かかりつけ薬剤師・薬局の評価やいわゆる門前薬局の評価の見直し等、薬局に係る対物業務から対人業務への転換を促すための措置の影響を調査・検証し、調剤報酬の在り方について引き続き検討すること。
11.
後発医薬品に係る数量シェア80%目標を達成するため、医療機関や薬局における使用状況を調査・検証し、薬価の在り方や診療報酬における更なる使用促進について検討すること。
12.
ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果について調査・検証すること。
13.
経腸栄養用製品を含めた食事療養に係る給付について調査を行い、その在り方について検討すること。
14.
在宅自己注射指導管理料等の評価の在り方について引き続き検討すること。
15.
未承認薬・適応外薬の開発の進捗、新薬創出のための研究開発の具体的成果も踏まえた新薬創出・適応外薬解消等促進加算の在り方、薬価を下支えする制度として創設された基礎的医薬品への対応の在り方、年間販売額が極めて大きい医薬品を対象とした市場拡大再算定の特例の在り方について引き続き検討すること。
16.
公費負担医療に係るものを含む明細書の無料発行の促進について、影響を調査・検証し、その在り方について引き続き検討すること。
17.
診療報酬改定の結果検証等の調査について、NDB等の各種データの活用により調査の客観性の確保を図るとともに、回答率の向上にも資する調査の簡素化について検討すること。また、引き続き調査分析手法の向上について検討し、調査の信頼性の確保に努めること。
18.
ICTを活用した医療情報の共有の評価の在り方を検討すること。
◇ ◇
平成28年度診療報酬改定の概要(主なポイント)
T.医療機能の分化・連携の推進(今改定重点課題)
1.
7対1入院基本料施設基準の見直し
以下のとおり基準を厳格化
@
「重症度、医療・看護必要度」の内容の見直しと要件の引上げ
(該当患者15% → 25%)
経過措置として、2年間「病棟群単位での算定」や「200床未満の病院」に対する猶予期間を設定。
A
「自宅等への在宅復帰率」の基準見直しと要件の引上げ
(75% → 80%)⇒現状平均は92%であり効果は限定的
支払側は、「平均在院日数(要件)の短縮」も主張したが医療側の強い反発により今改定では見送られ継続審議に(現行18日以下)。
2.
主治医機能の拡大
以下の主治医機能を新たに設定
認知症患者に対するかかりつけ医、小児かかりつけ医、かかりつけ歯科医。
3.
紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入
主治医機能を推進するため、紹介状なく特定機能病院(大学病院)及び500床以上の地域医療支援病院を受診する場合は初診5000円(歯科3000円)以上、再診2500円(歯科1500円)以上の徴収を義務化。
U.調剤報酬の適正化
1.
かかりつけ薬剤師・薬局
診療報酬上「かかりつけ薬剤師・薬局」の要件を明確化し、患者の服薬状況の一元的・継続的管理、医療機関との連携により、必要に応じて減薬等の処方提案を実施。
2.
門前薬局、大型チェーン薬局の調剤基本料の引下げ
調剤基本料が引下げとなる門前薬局の対象を拡大。
大型チェーン薬局であって特定の医療機関の処方箋による調剤の割合の高い薬局や、特定の医療機関と特別の関係(不動産の賃借等)がある薬局も引下げの対象に追加。
3.
後発医薬品の使用促進
新規後発医薬品の薬価を先発医薬品の50%(現行60%)に引下げ。(後発医薬品が10品目以上ある場合は40%)
薬局の後発医薬品の調剤割合に応じた後発医薬品調剤体制加算の見直し。(現行:55%以上18点、65%以上22点⇒65%以上18点、75%以上22点に拡大)
医療機関の一般名処方加算を拡大。(全部一般名処方した場合を加点)
V.薬価の適正化
1.
特例による市場拡大再算定
現行、薬価収載時の予測年間販売額の2倍以上かつ150億円超又は10倍以上かつ100億円超については15%〜25%の引下げ。(国費ベース▲200億円)
今改定においては、前記に追加して特例的に薬価収載時の予測年間販売額の1.5倍以上かつ1000〜1500億円の場合は最大25%、1.3倍以上かつ1500億円超の場合は最大50%の引下げ。(現時点ではC型肝炎新薬2品目が該当(国費ベース▲280億円))
2.
長期収載品(特許が切れた先発医薬品)の対象品目の拡大
長期収載品の後発医薬品への置換え率(現行20%〜60%)に応じた特例的な引下げ範囲を30%〜70%に拡大。
3.
イノベーションの評価(新薬創出加算の試行的継続)
創薬に係るイノベーションを推進するため、製薬会社が真に医療の質の向上に貢献する医薬品の研究開発を行うことを条件に、一定の条件に合致する薬剤の薬価の引下げを一時的に猶予する措置を継続。
4.
薬価算定時の「費用対効果」評価の試行的導入
高額な医薬品や医療機器の増加による医療保険財政への影響を踏まえ、医薬品や医療機器の保険収載や償還価格の見直しにあたり費用対効果の観点を試行的に導入。
W.その他
1.
湿布薬の処方制限
1処方につき70枚を超えて湿布薬を投薬した場合は、超過分についての薬剤料は徴収不可。又、やむを得ず処方する場合はその理由を診療報酬明細書に記載することを義務付け。
2.
糖尿病性腎症の保険者への協力
当該管理料の算定要件に、保険者が保健指導を行う目的で情報提供を求めた場合には必要な協力を行うことを追加。
3.
明細書の無料発行の推進
公費負担により自己負担のない患者に対しても明細書の無料発行を原則義務化(猶予期間有り)。