■2016年3月 No.534
高齢者医療 改革にスピードアップを!
― 拠出金負担はすでに限界 ―
桜の開花が待ち遠しいこの時期。各健保組合は新年度のスタートに向け、諸々準備に忙しいが、平成28年度予算の経常収支は果たしてどのような状況であろうか。
26年度決算では7年ぶりの黒字で、一見財政が好転したようにもみえた。景気好転の影響もあろうが、毎年の保険料率の引き上げが最大の要因というのが実際のところである。やはり今回の予算編成においても、多くの健保組合が料率を上げるなど、大変な苦心をしたことと思う。
さて、昨年6月に閣議決定した「骨太方針2015」では、平成32年度の基礎的財政収支黒字化達成に向け、経済と財政の一体的な再生を目指す「経済・財政再生計画」(28〜32年度)が策定された。経済再生と歳出改革・歳入改革の3つを一体推進するものである。また、この計画では社会保障を歳出改革の重点分野として位置づけ、改革に取り組む方針を明記した。
具体的には、昨年12月、経済財政諮問会議(内閣府・議長=安倍首相)の下に設けた経済・財政一体改革推進委員会が、歳出分野ごとの改革工程表や評価指標を含む「経済・財政再生アクション・プログラム」を決定し、公表した。
健保組合にとくに大きく関わる「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」の項目では、70歳以上の高齢者の自己負担上限額を70歳未満の現役世代並みの水準に引き上げる高額療養費制度の見直しを検討しており、「平成28年度末までに結論を出し、速やかに必要な措置を講ずる」としている。
ということは、同制度の見直し実施は最短でも29年度であり、来年度の歳出抑制にはつながらない。早期の実施を望むところだ。
一方、本丸(?)の後期高齢者の窓口負担については、財政審がすでに原則2割負担の方向を打ち出しているが、工程表では、「70歳から74歳の窓口負担の段階的な引き上げの実施状況等も踏まえつつ、関係審議会等において(あり方を)検討し、平成30年度末までに結論」としている。
今夏の参院選を考えて引き伸ばし、敢えて踏み込みにブレーキをかけたのか。あるいは、工程表に明記されただけでも前進と考えるべきなのか。また、拠出金等の仕組みの見直しなど、課題の多い高齢者医療制度の見直しは工程表には見当たらない。
健保組合の高齢者医療制度への拠出金負担は、すでに限界にきている。このままでは料率を協会けんぽより高くせざるをえない健保組合が増え続けるだろう。
現状では、多くの組合がなんとか事業主の理解を得て、解散を回避しているが、それもまもなく限界を超える。ある年度に一気に相当な数の組合が解散し、協会けんぽへなだれ込んでしまうかもしれない。
そんな悲惨な状況を回避し、国民皆保険制度を維持するためには、制度の持続可能性を高める不断の取り組みが必要である。そして、さらには思い切った改革も必要で、そこにはスピードアップが求められる。牛歩のようなスピードの改革では手遅れになってしまう。
政府には、これから日本を背負う若者のためにアクセルを踏み込んでほしい。
(M・I)