■2016年1月 No.532
医療改革は「三方一両損」の精神で
― 健保組合全国大会の決議に思う ―
新年早々、一席おつき合いをお願いいたします。
落語の演目に「三方一両損」という話があります。金太郎が拾った三両を落とし主の熊五郎に届けるが、熊五郎は宵越しの金は持たないと、この三両を受け取りません。お互い意地を張り双方の大家を巻き込んで大騒動になります。しまいに奉行所に駆け込み、名奉行大岡越前の裁きになるわけです。
大岡越前は、この三両に自ら一両を足し四両とします。拾った金太郎にはその正直さ、落とした熊五郎にはその純潔さへの褒美でそれぞれ二両ずつ渡すという裁きになるお話です。
熊五郎、金太郎とも相手の言い分を聞けば三両が入るのに二両になってしまい、大岡越前も自ら一両を出したことで、三者とも「一両の損」でまるく収まったというトンチが効いた名(迷)裁きを、面白おかしくネタにしたものです。
この話には二つの教訓があると思います。
一つは、だれが損をした得をしたといがみ合うのはナンセンスで、見る目を変えれば、「損」と「得」は表裏一体ということです。もう一つは、大岡越前が公正で、正直者を守る立場から裁き、自らの私財を出すということです。落語とはいえ、庶民はこの為政者に拍手をするわけです。
話は大きく変わって現代。約3000万人が加入する健保組合は、国民皆保険制度の中核としての役割遂行だけでなく、その存続にさえ危機感があります。平成26年度決算見込みによると、赤字組合が52.6%、保険料率を引き上げた組合が27.5%と厳しい財政に直面しています。
昨年11月25日の健保組合全国大会では、「現役世代が納得できる公平な制度の実現」に向けて、次の4項目の実現を期す決議をしました。
▽高齢者医療費の負担構造改革の実現 ▽安定した組合運営に向けた財政支援の継続・拡充 ▽実効ある医療費適正化対策の実施 ▽保険者機能の発揮に効果的な健保組合方式の維持・発展―。
医療・健康を支える皆保険制度を維持するために、健保組合が目ざす公平な制度実現に向けて、国民全体が目先の損得にこだわらない姿勢で議論が深まることを期待します。
また、財政上の課題は先送りすればするほど負担が重くなることは明らかです。大岡越前が、自ら一両を差し出し両者を納得させたように、現役世代の過重負担を軽減させるため公費投入を図る名裁きを国(政府)に期待します。
さてさて、この落語の落ちは、一件落着後、食事を振る舞われた二人が大岡越前から「腹も身の内。たんと食すなよ」と悟され、「多かあ(大岡)食わねえ」「たった一膳(越前)」と答えることです。
私たち健保組合は医療費の「大食い」を防ぐために、たった「一膳」でも、データヘルス計画の活用などで、疾病予防・健康づくりを効率的・効果的に進める努力を続けなければなりません。
江戸時代の平均寿命は、30歳台とも40歳台ともいわれています。いま、私たちは当時のほぼ倍の寿命を手に入れました。当時と比べて倍以上の健康と幸せを実感できる社会を実現させたいものです。
お後がよろしいようで。
(K・K)