 |
糖尿病とアルツハイマー病の関係とは!?
〜予防への新たなアプローチ〜 |
10月7日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 老年・腎臓内科学 准教授 里 直行氏が「糖尿病とアルツハイマー病の関係とは!?〜予防への新たなアプローチ〜」をテーマに講演されました。参加数は、61組合・74人。(以下に講演要旨) |

|
 |
|
里 直行 氏 |
少子高齢化の進む現代社会において、認知症は大きな問題となりつつあります。医療の現場においても、また、患者さんやその家族、介護の現場においても、現実の取り組みがなされていることと思います。
認知症の半分〜3分の2がアルツハイマー病であり、続いて、脳血管性認知症やレビー小体病、前頭側頭葉型認知症があります。
アルツハイマー病は、記憶の形成に重要な海馬を含む側頭葉や、空間認知を行う頭頂葉に萎縮をきたし、もの忘れや徘徊となって症状が現れます。
アルツハイマー病脳を顕微鏡でみると、老人班(神経細胞の外にたまる脳の「しみ」のようなもの)や、神経原線維変化(神経細胞内にたまる「糸くず」のようなもの)、そして神経細胞死が認められます。
老人班に蓄積しているのはβアミロイドという蛋白ですが、その前駆体であるアミロイド前駆体蛋白の遺伝子に家族性アルツハイマー病患者さんにおいて変異がみつかったことから、βアミロイドがアルツハイマー病の最上流の原因であるとの仮説が立てられました。
この仮説のもと、βアミロイドが根本的治療薬開発の標的となりました。この蛋白に対するワクチン療法が開始され、一時、副作用や投与時期の問題(治験の対象となったのは軽度〜中等度のアルツハイマー病の患者さんですが、老人班はすでに10数年以上も前から蓄積しているため、投与時期が遅いと考えられました)から、開発がなかなか難渋していましたが、最近、ようやく良好な兆しがみえ始めているところです。
一方、糖尿病があるとアルツハイマー病の発症リスクが1.5〜2倍、増えます。それではなぜ、増えるのでしょうか?
まずは血管の因子が考えられます。血管反応性という(神経活動に応じて血流を増減させる)可逆的な因子があります。
また、糖尿病は動脈硬化を増加させますので、微小脳梗塞などの血管病変を増加させます(不可逆的)。低血糖(認知機能障害というより意識障害に近いですが)や高血糖(高血糖を是正することで認知機能が戻る)によって可逆的な認知機能障害がおこります。これらの代謝因子や血管因子の影響を受けて、神経変性が増加します。われわれは、糖尿病を合併したアルツハイマー病のモデル動物を独自に作成し、現在、糖尿病が認知症を促進するメカニズムの解明による新しい認知症の予防・治療薬の開発をめざしています。
つい最近、北欧から次のような報告がありました。それは、認知症のある方がたに「運動・食事・認知トレーニング・血管リスク管理」の4つのいずれか1つ(対象の9割強は3つ以上の介入に成功)の介入をする群としない群に分けて、2年間フォローするといったものでした。
その結果、介入した群において有意な認知機能の改善が認められました。この結果は、糖尿病を含む生活習慣病を予防することによって、認知症を予防できる可能性を示唆するものといえます。 |
|
 |