■2015年9月 No.528
職場における困難事例への対応
〜発達障がい・パーソナリティ障がい・現代型うつ病〜
8月4日、大阪商工会議所で心の健康講座を開催。関西福祉科学大学 社会福祉学部 臨床心理学科 柏木雄次郎教授が「職場における困難事例への対応〜発達障がい・パーソナリティ障がい・現代型うつ病〜」をテーマに講演されました。参加数は、61組合・90人。(以下に講演要旨)
柏木 雄次郎 氏
はじめに
近年、職場における困難事例として、@発達障がい(とくに、アスペルガー症候群)、Aパーソナリティ障がい、B現代型うつ病―の3病態をあげることができる。今回の講座では、前記3病態の特徴・対応について概説する。
1.発達障がい
「発達障がい」とは、発達障害者支援法により規定された3疾患(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症)である。
これらのなかで、自閉スペクトラム症、とくに「アスペルガー症候群」が、対応困難事例として多くの職場で経験されている。同症候群の特徴として、@言語・知能障がいがない、Aコミュニケーション障がい(場の空気が読めない、他人の気持ちが読めない)、Bこだわり障がい(パターン化した日常生活・思考を好み、マニュアルに従った仕事を好む)―等があげられる。
適切な対応としては、@指示を具体的に伝える(暗黙のルール等は通じない、詳細まで明確化する)、Aパターン化を活用する(マニュアルを提示する)、B本人に特性を理解させ、自助努力を促す、C職場側も特性を理解して、適材適所を図る―等である。
2.パーソナリティ障がい
「パーソナリティ障がい」とは、乳幼児期から「心の空洞」を抱えたまま成長して、性格の極端な偏りを生じた病態である。複数のパーソナリティ障がいのなかで、職場で対応に難渋するのは「境界性パーソナリティ障がい」である。
境界性パーソナリティ障がいの特徴として、@人間関係の歪み(極端な判断:敵か味方か、白か黒か)、見捨てられ不安、B対人操作性(自分の都合のいいように人を操ろうとする)、Cアイデンティティ障がい(「生きていても仕方ない」という苦悩)、D衝動性・攻撃性(リストカット、ストーカー行為)、E不安定な情動―等があげられる。
適切な対応としては、@苦悩を理解しようとしていることを示す、A認知の歪みを自ら修正するように促す(自分自身を認めて、大切に思う気持ちを持てれば、「心の空洞」を埋めることができる)、B適切な距離を保つ(適切な車間距離をあけた併走車)―等である。
3.現代型うつ病
「現代型うつ病」の特徴として、@自尊心が高く他罰的、A症状出現が職場に限られることが多い、B休職に対してためらいがない、C20〜30歳代の若年者が多い―等があげられる。
適切な対応としては、@人事労務管理の枠内での誠意ある対応(規則外の甘い過剰対応は不要)、A私的感情を排した冷静な対応、B自尊心を配慮した親身な対応(「誉め育て」が奏効する)―等である。
まとめ
対応困難な3病態への適切な対応を、以下のように簡潔にまとめることができる。
・発達障がい(アスペルガー症候群)→特性を活かして、「適材適所」
・パーソナリティ障がい→「距離」を空けつつ、苦悩を理解
・現代型(新型)うつ病→冷静に、甘やかさずに「誉め育て」
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