広報誌「かけはし」

 
■2015年9月 No.528
心血管リスク疾患としての慢性腎臓病(CKD)
〜CKD予防のために注意すべき食品添加物・無機リン〜

 8月19日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪市立大学大学院 医学研究科 稲葉雅章教授が「心血管リスク疾患としての慢性腎臓病(CKD) 〜CKD予防のために注意すべき食品添加物・無機リン〜」をテーマに講演されました。参加数は、50組合・63人。(以下に講演要旨)

 
 
稲葉 雅章 氏
 最近、CKDが糖尿病をおさえて最大の心血管イベントのリスクとなる単一の疾患であることが報告され、その一因としてリン過剰症があげられる。
 リン過剰は心血管障害なども含めて種々の機序によって生命予後を増悪することがわかってきており、現代生活が食事中添加リンなどによるリン摂取過剰の状況であることから、重大な生体毒として理解されている。
 CKDではリン排泄の低下が早期からみられることから、リン過剰の影響を受けやすい。生体はリン過剰摂取に対応して、FGF―23分泌増加、活性型ビタミンD抑制、副甲状腺ホルモン過剰を通じて血清リンの上昇を抑制する。
 現在、血清リン濃度の上昇は、血管壁への直接的な暴露による動脈硬化性変化、とくに血管石灰化を進行させることで生命予後を悪化させると考えられているものの、これらリン防衛機構が発動することで健康長寿ホルモンとしてのビタミンD欠乏、骨吸収亢進が起こるための骨からのリン負荷増大を通して生命予後をかえって悪化させる。
 血中リン濃度上昇は血管石灰化の進展を促進する。メンケベルグ型中膜石灰化のみでなく、腹部大動脈の血管石灰化をも促進させる。大動脈の石灰化(+)群は、(−)群に比較して、心血管イベント発症率や生命予後は有意に不良であり、メンケベルグ型の中膜石灰化についても、石灰化(+)群では、(−)群に比較して、生命予後不良であることから、血清リン濃度上昇→血管石灰化→生命予後悪化の方向性が示唆される。
 経口リン摂取の制限のために、リンを多く含む蛋白質摂取制限が行われるが、末期腎不全患者では栄養状態が必ずしも良好でなく、タンパク質摂取制限による栄養状態悪化が生命予後を悪化させる可能性がある。
 したがって、最も望ましい治療は、主に加工食品に含まれる無機リンの摂取制限である。食事中には添加リンがとくに加工食品に含まれており、これらは無機リンの形で容易に吸収され、また食品成分表には掲載されないことを理解する必要がある。
 リン含有量の多い食物である肉、魚、卵、乳製品、大豆食品に加えてコーラなどのソフトドリンクについては、摂取する量について注意する必要がある。ハムやソーセージなどの加工食品は、非加工食材に比べ蛋白質含有量に対するリン含有量の比率が高く、無機リンの含有が多くなる。
 穀物・肉・魚や乳製品からのリン吸収率はおおむね60%であるのに対して、コーラなどの清涼飲料水やスナックなどの添加リンの吸収率は100%となるため、これら食品の摂取を中止する必要がある。
 リン過剰は生命予後悪化の大きな原因であり、経口リン摂取制限や早期からのリン吸着薬使用で抑えることはCKD患者のみならず、non―CKDの段階でも生体にとって生命予後改善のための重要な戦略と考えられる。
Chronic kidney disease
Fibroblast growth factors 23、線維芽細胞増殖因子 23
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