■2015年6月 No.525
医療保険制度改革関連法が5月27日の参議院本会議で可決、成立した。国保の都道府県単位化、後期高齢者支援金の全面総報酬割化などを盛り込み、国保法、健保法、高齢者医療確保法等の一括改正を図ったもの。今通常国会での重要法案の一つだ。国会審議では衆参両院で附帯決議が付された。同法の成立にあたり、健保連の大塚陸毅会長は同日、引き続き医療費適正化対策の推進、高齢者医療制度の負担構造改革などに取り組むよう、コメントで求めた。大塚会長のコメントは次のとおり。
医療保険制度改革関連法の成立にあたって
(大塚陸毅健保連会長コメント)
本日、参院本会議において、「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部改正法」(医療保険制度改革関連法)が可決され、成立した。ここに至るまでの関係者の尽力には改めて敬意を表するとともに、改革の趣旨に則した適切な施行を要望する。
同法には、拠出金負担の重い健保組合などへの国費による負担軽減策の創設など評価できる部分も含まれているが、その中心は国保の財政基盤強化策に偏り、医療保険制度全体の持続可能性を確保するという大局的な視点から見れば、不十分な点もあり決して満足できる内容とはいえない。
特に、被用者保険関係5団体の強い反対にもかかわらず、後期高齢者支援金の全面総報酬割によって生じる国費財源の7割相当を国保の財政対策に転用するとしたことは、国の財政責任を現役世代の保険料負担に転嫁する「肩代わり」そのものであり、極めて遺憾である。
その一方で、今国会の法案審議を通じて、党派を超えて、過重な拠出金負担に苦しむ健保組合の実情や健保連の主張に対する理解の深まりを認識することができた。
この結果、衆参両院の厚生労働委員会では附帯決議が採択され、健保連の主張に沿った項目も数多く含まれることとなった。健保組合・健保連一体となった活動が一定の成果をあげたものと評価するところである。
同法は成立し、改革が進められることとなるが、医療費の適正化対策や高齢者医療制度の負担構造改革等、医療保険制度には多くの課題が残されたままである。
政府におかれては、国会審議や附帯決議の内容を尊重し、その実現を図るとともに、真に医療保険制度の持続可能性を追求するために、抜本的改革を断行するよう強く要望する。
衆参両院で附帯決議
医療保険制度改革関連法案(持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案)は、4月28日に衆院を通過、5月27日の参院本会議で、与党の賛成多数で可決、成立した。法案に対しては、実質審議にあたった衆参両院の厚生労働委員会で附帯決議を採択した。
参院での附帯決議は、@国民健康保険、A高齢者医療制度および被用者保険、B患者負担、C医療費適正化計画および予防・健康づくり、D患者申出療養―の5項目におよぶ。
このうち、Aの「高齢者医療制度および被用者保険について」では、現役世代の拠出金負担が過大とならないよう、負担がとくに重い保険者に対する負担軽減措置を講じること、将来にわたる高齢者医療運営円滑化等補助金の財源確保に努めること―などを、法施行にあたり政府に求めた。
以下に、衆院厚労委の附帯決議(4月24日)全文と、参院厚労委の附帯決議(5月26日)の抜粋。
衆院厚生労働委員会の附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
一 患者申出療養については、患者が自ら申し出たことを理由に、有害な事象が発生した際に不利益を被ることのない仕組みとするとともに、患者申出療養の対象となった医療が、できる限り速やかに保険適用されるような措置を講じること。
二 持続可能な医療保険制度を構築するためには増大する医療費の抑制が不可欠であることに鑑み、今回の改正による医療費適正化の取組に加え、現在実施されている実効性のある取組の普及・促進を図る等医療費適正化の指導の徹底を図ること。
三 本法による制度改革の実施状況を踏まえつつ、高齢者医療制度を含めた医療保険制度体系、保険給付の範囲、負担能力に応じた費用負担の在り方等について、必要に応じ、磐石な医療保険制度を再構築するための検討を行うこと。
参院厚生労働委員会の附帯決議(抜粋)
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
二 高齢者医療制度及び被用者保険について
1 高齢者の医療費の増加等に伴い、現役世代の負担が大きくなっている中で、持続可能な医療保険制度の確立に向けて、更なる医療保険制度改革を促進するとともに、負担の公平性等の観点から高齢者医療制度に関する検討を行うこと。
2 前期高齢者納付金及び後期高齢者支援金については、今後高齢化の一層の進展が見込まれていることを踏まえ、現役世代の拠出金負担が過大とならないよう、本法に規定された拠出金負担が特に重い保険者に対する拠出金負担軽減措置を講ずるとともに、将来にわたって高齢者医療運営円滑化等補助金の財源を確保するよう努めること。
3 後期高齢者支援金の総報酬割の拡大に当たっては、被用者保険の保険財政への影響の評価及び検証を行うとともに、被用者保険の保険者及び被保険者に十分な説明を行い、その理解と納得を得るよう努めること。
4 協会けんぽに対する国庫補助の在り方については、加入者の報酬水準が相対的に低いことに鑑み、その加入者の保険料負担が過重とならないようにするため、必要な財源の確保に努めること。
医療保険制度改革骨子
1.国民健康保険の安定化
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保険者支援制度の拡充(約1700億円)を実施(平成27年度〜)。後期高齢者支援金の全面総報酬割実施にともない生じる国費を優先的に活用し、約1700億円を投入(29年度〜)。
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道府県が財政運営の責任主体(30年度〜)。都道府県が国保の統一的な運営方針を定め、保険料率設定等を行う。市町村は保険料徴収、保険給付決定等を行う。
2.高齢者医療における後期高齢者支援金の全面総報酬割の導入
・
総報酬割部分の拡大実施(27年度〜1/2、28年度〜2/3、29年度〜全面総報酬割)。
・
拠出金負担の重い被用者保険者への支援実施(27年度約110億円、29年度約700億円。円滑化等補助金(従来分)=27年度約200億円、29年度約120億円)。
3.協会けんぽの国庫補助率の安定化と財政特例措置
4.医療費適正化計画の見直し
5.個人や保険者による予防・健康づくりの促進
6.負担の公平化等
7.患者申出療養の創設
8.今後さらに検討を進めるべき事項