広報誌「かけはし」

 
■2015年1月 No.520
息さわやかで健康長寿

〜全身の健康は「健口」から〜

 11月28日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子免疫制御学講座予防歯科学分野 天野敦雄教授が「息さわやかで健康長寿〜全身の健康は「健口」から〜」をテーマに講演されました。参加数は、33組合・52人。(以下に講演要旨)

 
 
天野 敦雄 氏
歯周病
 歯周病は感染症です。
 歯周病菌は18歳以降に、お口の中に住み着きはじめます。歯磨き不良や加齢などの理由で、歯周病菌が増殖し、歯ぐきの組織(歯周組織)と歯垢(細菌の集団)との拮抗バランスが崩れたとき、歯周病が発症します(図)。
 いちど住み着いた歯周病菌は、いくらすばらしい歯周病治療を受けても、口の中から追い出すことはできません。
 歯周病治療とは、歯周病菌の数を減らして、歯周組織と歯垢の細菌との拮抗バランスをとりもどすこと、すなわち悪玉菌を減らして善玉菌を増やすことが目標なのです。

歯周病発症と進行
 いつ歯周病は始まるかをご説明しましょう。
 歯周病の初期には歯と歯ぐきとの間に隙間(歯周ポケットと呼びます)ができ、この内側の歯ぐきに潰瘍面が形成されます。膝を擦りむいたら、上皮が剥がれてできた潰瘍面から血が出ます。同じように歯周ポケットの潰瘍面からも出血があります。このときから歯周病が本格的に始まります。
 歯周病菌には栄養素として鉄分が不可欠です。この鉄分を歯周病菌はヒト血液中のヘモグロビンから手に入れます。しかし、健康な歯肉溝や出血をともなわない歯周ポケットには出血がないので、歯周病菌は鉄分を摂取できません。そのため歯周病菌が感染はしていても増殖は容易ではないため、歯周病は起こせません。
 しかし、歯周病菌はこの厳しい状態を堪え忍び、人知れず歯周病発症のときを待っています。やがて、歯周ポケット内面に潰瘍面が形成されます。そして、露出された毛細血管からの血液が歯周ポケットを満たしたとき、歯周病菌は増殖し、歯垢の病原性を一気に高めます。
 歯周病菌と歯周組織の拮抗が崩れたこのときこそが歯周病発症の瞬間です。「あれ?歯を磨くと血が出るようになった」、は歯周病発症のサインです。

出血と歯周病関連全身疾患の関係
 皆さんのお腹に9p×8pサイズの潰瘍面があったらどうします?
 潰瘍面からは真っ赤な血が出ているでしょうから、すぐに傷口を滅菌ガーゼで覆ったり、薬を塗ったりするでしょう。
 では、歯周ポケットにできている潰瘍はどうでしょう。中等度の歯周病患者さんの歯ぐきの潰瘍面積は72(9p×8p)といわれています。しかし、この大きな傷口は手当どころか、歯垢の細菌に24時間さらされているのです。そして歯垢細菌は潰瘍面の毛細血管に侵入し全身に運ばれます(この状態を菌血症といいます)。
 歯周病菌による菌血症は、歯石除去や抜歯はもちろん、毎日の歯磨きや食事によっても起きます。これが、歯周病によって引き起こされる全身疾患の原因です。

歯科医療のパラダイムシフト
 21世紀になって歯科医療が変わってきました。「削る・詰める・切る・抜く」のリハビリテーション治療から、予防歯科医療へのパラダイムシフトが起こっています。
 歯周病からお口を守るためには、歯周組織と歯垢細菌との拮抗バランスを保つように心がけてください。