広報誌「かけはし」

■2014年11月 No.518


がん検診の精度管理と受診率向上のために

 9月22日、薬業年金会館で健康教室を開催。大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課長 中山富雄氏が「がん検診の精度管理と受診率向上のために」をテーマに講演されました。参加数は、55組合・66人。(以下に講演要旨)

 

 

中山富雄 氏

 予防医学の推進は、医療費の軽減につながると安易に叫ばれていますが、そう簡単な話ではありません。予防医学の経済性を評価した論文の大半は、新しい介入法により費用の増加を示しており、介入による増加分が効果に見合っているかどうかを問題にしています。なんでもいいから導入すればよいというものではありません。
 がん検診の場合、かかりやすい年齢とそうでない年齢がはっきりしていることから、臓器別に対象年齢を変えないとムダな支出になります。たとえば、胃がんは若年者では減少し、40歳代には検診は必要ないといわれています。逆に、子宮頸がん検診は20〜30歳代に必要といわれています。
 また職域検診で問題なのは、特定"健診"とがん"検診"が一つの枠の中で行われていることです。"健診"は病気そのものではなくリスク因子を指摘して、(医療機関を受診せず)自分で生活改善を図るものですが、"検診"は病気そのものを指摘するものであり、医療機関を必ず受診しなければなりません。病院に行かなければならないのか否か、緊急性があるのか10年後のリスクの話なのかを明確に示してあげないと混乱が生じかねません。
 がん検診の効果とは、受診した集団での死亡される方の割合(死亡率)が減少することです。なんでもいいから検査法を提供すれば死亡率は減少するのか?というと、そうではありません。
 1970年代に行われたカナダの乳がん検診の研究では、マンモグラフィの検診を提供しても死亡率は変化がありませんでした。この研究ではマンモグラフィの撮影の質が著しく悪かったことが報告されており、有効性が確認された検査法であっても、精度が悪いと期待された効果が発揮できないということを示しています。
 近年、住民検診の世界では、自治体や検診機関別に検診成績が公開されるようになってきました。これは健康増進法という法的根拠があり、その実施手順として国の指針が示されているためです。
 しかし、職域でのがん検診は法的根拠がなく、どの施設が優良かどうかは判断がつかない状況にあります。精度を担保する手立てとしては、契約の際の仕様書に検診の適切な方法・実施手順を盛り込むことです。住民検診での実施手順は「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」として公開されています。
 受診率向上には苦戦されている方も多いと思います。このような予防対策への参加率は、収入に恵まれた健康意識の高いものほど高く、経済的な問題を抱えている健康意識の低いものほど低いことがわかっています。
 書類配布による均等な受診勧奨は、これらの方には影響を及ぼしにくいので、別途個別の対応(ハイリスク・アプローチ)の併用を考えなければなりません。
 これからの健診・検診対策は年齢やリスクに応じたきめ細かい対応が必要です。

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