広報誌「かけはし」

■2014年11月 No.518
時評

"四戒の教え"がいまを語る

―「高齢者医療」抜本改革のとき ―


 ときはいま、健保組合はまさに存続危機の状況下。そのなかで思い浮かぶ言葉がある。
 いまから10年ほど前だったか、日刊紙の関西版に、「四戒の教え」(中国・宋の名僧・法演の言葉)に関する記事が掲載された。
 その内容は、ある大手企業のトップが、退任会見で自らの心境をこの言葉に託して語り、それを記事にしたものである。
 四戒とは、字のとおり4つの戒め。この言葉をもとに、いまを考えたい。
 その一つ、「勢い、使い尽くすべからず。勢い、もし使い尽くさば禍(わざわい)必ず至る」。
 勢いあるときにこそ失敗の種がまかれている。なにごとも、やり過ぎてはいけない。
 自らリーダーシップをとってきた企業を律する言葉であったと思われる。しかるに、これは現下の、政府が高齢者医療の過度な負担を健保組合に求め続ける状況にあてはまるのではないか。
 いままさに、政権は経済回復に邁進するなかで、健保組合へのさらなる負担拡大へひたひたと進んでいる。国民皆保険の崩壊という「禍」が潜んでいることをよそに。
 その二つは、「福、受け尽くすべからず。福、もし受け尽くさば、縁必ず孤なり」。
 よい条件をいいことに、利をほしいままにすれば孤立するとの戒め。
 現在、国保は制度見直しのさなかにある。後期高齢者支援金の全面総報酬割によって生ずる財源を国保支援に投入するよう、全国知事会は要求している。財政が厳しいのは理解するが、被用者保険者からの前期高齢者納付金が国保の現役世代の医療費にも充当されていることも考えると、いささか「福」の受けすぎではあるまいか。
 周囲を顧みていない話であり、そこに存在するのは「孤」に他ならない。
 戒めの三つ、「規矩(きく)行い尽くすべからず。規矩もし行い尽くさば、人必ずこれを繁とす」。
 規則や物事の決まりばかりいっていると、人はうるさがっていうことを聞かなくなる。
 最後の戒めは、「好語(こうご)説き尽くすべからず。好語もし説き尽くさば、人必ずこれをやすんず」。
 響きのいい言葉や、すばらしい話でも、聞かされ続ければ軽んじてしまう。
 健保組合は、ICTを活用したデータヘルスや税番号制度に向けて新たな取り組みを行うことになろう。そこには疎んじられる「規矩」や軽んじられる「好語」があってはならない。
 安倍首相は10月1日の経済財政諮問会議で「聖域なき社会保障改革の議論」を求めている。
 これからは四戒の教えを逸脱することのないよう、政府には、地に足をつけた抜本的な制度改革の断行を期待するところである。
  (H・K)